2016年1月アーカイブ

 

上智大学英文科同窓会

 

2016年のご挨拶

巽 孝之

(上智大学英文科同窓会会長)

 

 謹賀新年。

 わたしたちの同窓会も発足後三年目に入りました。その年頭にご挨拶できることを、

心よりうれしく思います。

 

 一般に「同窓会」という概念を組織として表す場合の英語は"alumni association"

ですが、同窓会総会当日のことは"home coming day"と呼びますね。親しい級友

たちとともに学んだ母校がひとつの「故郷」転じては「我が家」に見立てられている

のは興味深い限りです。そこへ帰れば、いつでも懐かしい顔ぶれと再会できるーー

これは何にも代えがたい魅力でしょう。

 

 もっとも、昨今では昔お世話になった先生方の訃報に接することも少なくありませ

ん。昨年2015128日には、わたしたちにアメリカ文学を教えてくださったフラン

シス・マシー名誉教授がお亡くなりになりました。享年 89

 マシー先生は日本文学におけるキリスト教的背景を中心に研究・翻訳を続けた

比較文学者としても名高く、イエズス会神父としても熱心な布教活動で知られてい

ました。

 ウィリアム・フォークナーやソール・ベロー、ジョン・チーヴァーといったアメリカの

主流文学作家を研究するとともに、夏目漱石の『門』や遠藤周作『おバカさん』の

英訳をこなし、ラルフ・ウォルドー・エマソンと北村透谷の比較文学研究では余人の

追随を許さなかったのです。

 その教え方は情熱的にして厳しいもので、学生が誰かのノートを丸写ししている

のが発覚すると、それを取り上げ、ビリビリとまっぷたつに引き裂いたというエピソー

ドも残っています。

 わたし自身、学部時代は比較文学を専攻し、大学院時代以降はアメリカ文学を

専攻するようになったため、1974年の学部入学時代から 83年の大学院修了時点

まで 9年間、教室のみならず聖書研究会に至るまで、公私問わずさまざまな局面で

先生の薫陶を受けました。強烈な個性の持ち主であった先生方ひとりひとりについ

て思い出を刷新していくのも、同窓会の役割のひとつかもしれません。

 

 昨今の我が国ではいささか不穏な政治的空気が漂い、昨年 201568日には

文部科学大臣が教育系および人文系の廃止ないし再編成を求める下記の要請を

出し、わたしたちが学んできた英語英米文学のカリキュラム自体が危機を抑圧しよう

としたものです。

 「特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18

人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえ

た組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極

的に取り組むよう努めることとする」。

 現在、この一節をめぐって、文科省は「誰も人文系を潰すなどとは言っていない、

この文章では『教員養成系学部・大学院』は『組織の廃止』にかかり、『人文社会学

系学部・大学院』は『社会的要請の高い分野への転換』にかかるのだ」と苦しまぎれ

の弁明をしていますが、日本語を母語とせずとも正規の日本語文法を習得した者な

らば、断じてそうは読めないのは火を見るよりも明らかです。最終的には文科省は

「これは文章が下手な役人が草稿執筆したにすぎない」と言い逃れの策を打ちまし

たが、はてこのように文意が通じぬテクストを公表して恥じることのない知性に最も

不足しているものこそは、人文的教養ではなかったでしょうか?

 

 英語英米文学をもその重要な一翼とする人文学教育は、まぎれもなく我が国の

近代化の歩みとともに浸透し、その結果、わたしたち上智大学英文科で学んだ同窓

生たちのかけがえのない「故郷」にして「我が家」となりました。そうした「ホーム」へ

戻って来られなくなったら一大事というほかありません。その意味においても、わたし

たちは同窓会の集いすなわち「ホームカミング・デイ」を絶やさぬよう力を合わせて

いきたいものです。

 

 

昨年1月28日に天国に旅立たれたフランシスコ・マシー先生の一周忌追悼ミサのご案内です。

主催は先生がご指導なさっていた水曜会を中心としたグループ有志の方々ですが、

出席連絡とお問い合わせは同窓会宛にお願い致します。

eibun-alumni@sophiakai.gr.jp

締切は1月20日です。

 

マシー神父様一周忌 HP FB用.docx