2012年7月アーカイブ

第22回コムソフィア賞受賞者特別講演(ダイジェスト版)

コムソフィア賞授賞者特別講演(ダイジェスト版)

日時:2012年6月30日(土)15:00~17:00
場所:上智大学四ツ谷キャンパス 9号館地下カフェテリア

当日の3名の受賞者の特別講演内容をダイジェストでご紹介します。
※総会および授賞式の模様はこちらを御覧ください。

我謝氏三森氏信長氏
  我謝京子氏 三森ゆりか氏  信長貴富氏


■「ニューヨークから世界に発信する日本の震災復興」我謝京子さん

ロイターで唯一の日本人女性テレビ記者として活躍する傍ら、映画「母の道、娘の選択(Mothers'Way, Daughters'Choice)」を監督し、世界に向けて女性の視点で捉えた作品を数々発信している我謝京子(がしゃ きょうこ)さん。

まずは、TBSニュースバード用に取材した番組を例に、「日本語版」としての表現手法と、「英語版」の表現手法の違いを紹介してくださいました。日本語版の場合は、自分(レポーター)が画面に登場して親しみを醸しだすと共に「まじめ」に「丁寧」に紹介することが望まれますが、英語版では、レポーターの登場など親しげな演出はかえって逆効果となり、それよりも取り上げた主題の主旨を強調するとともに、その紹介に「ユーモア」や「ウイット」が要求されるのだそうです。実際にそれぞれの映像を見てみると、その違いは歴然でした。

我謝さん講演
我謝京子氏


話は、今回の受賞のきっかけにもなった、ドキュメンタリー映画「3.11ここに生きる」の話題に。

たまたま、『母の道、娘の選択』の上映のために沖縄に行ったときに、東日本大震災が起こったそうです。ニューヨークでの9.11の怖かった経験が頭をよぎり、テロと地震は似ていると感じたと言います。このまま取材を続けたいと思ったそうですが、NYに娘を残したままだし、ロイターで日々担当している株情報番組も待っていた。そこで一度はNYに戻ったそうです。

その後、ある方からメールを頂き、『母の道、娘の選択』のように、日本がどうやって復興してゆくかを女性の視点で映画にしてみませんかというお誘いをいただくことになります。これがきっかけで、被災地の福島で『母の道、娘の選択』の上映会が実現し、現地の方々とのコミュニケーションを通じて、ドキュメンタリー映画「3.11ここに生きる」を製作することを決心するに至ります。

映画は、被災地の女性にスポットを当て、被災から立ち直るために力強く生きる様をインタビュー形式で綴っています。我謝さんは、これを撮影するために、福島から宮城までを旅したとき、瓦礫の中に、炊飯器やおたま、赤ちゃんのものなど、生活用品が次々と目に飛び込んでききたそうです。それを見て、彼らの日常は、あの日のあの瞬間にすべてが流されたんだと改めて自覚をされたそうです。

その強烈な印象から、今回のドキュメンタリーにナレーション(映像の補足のために声で解説すること)は一切入れないことにしようと決めたそうです。地元の女性の生の声と生の映像以上の伝達手段や手法はない、と感じたそうです。

結果、素晴らしい作品が仕上がり、昨年10月の第24回東京国際女性映画祭で発表することができ、その後カナダ・バンクーバー、台湾やソウルでも上映され、今後はアメリカほか世界各地での上映も決まっているとのことです。

最後に我謝さんからメッセージ。

私たちは、過去には戻れません。また、これから何が起きるかもわかりません。すなわち「今を生きる、今を描く」これが私たちが選択できる唯一の道だと思います。私は「今を生きる人達を描こう」と思います。これからも応援宜しくお願いします。



■「英語教育より母語教育を ーこれからの日本に必要な言語教育」三森ゆりかさん

冒頭で、会場のみなさんに「小学校の国語の時間に何を学習したか」を聞くことから講演が始まりました。


三森氏講演
三森ゆりか氏


ほかの講演会でも、ほとんの方が「漢字」や「文法」と答えるそうです。ところが欧米で同じ質問をすると、みなさんは「対話」や「作文」「読解」と答えるのだそうです。ここに日本の言語教育の問題点があるのだそうです。

日本の母語教育
日本の母語教育(三森氏資料より)


三森さんも親の仕事の関係でドイツに移住したとき、ドイツでの授業でドイツ語で「議論」したり「作文」を書いたりすることにとても苦労されたそうです。そのとき皆さんが思うのは、日本語はほかの言語と並びが違うとか文字も違う、だから言葉を習得するのに苦労するのだと・・・。ところが、三森さんはそのドイツで驚くべき経験をされることとなります。

自分以外の母語がドイツ語ではない生徒は、いともたやすく「議論」や「作文」に馴染んでくるのだそうです。並びや文字が違おうとも、細かい単語もわからなくても、言葉を効果的に使いこなす技術=言語技術(Language Arts)は、みなさんすでに学ばれていて、その技術は母語が違っても同じだからなのだそうです。特に日本人に足らないのは「クリティカル・シンキング(論理的思考)」だそうです。

日本ではすでに昭和初期より「言語技術」という言葉が翻訳され、辞書に紹介されているそうです。しかしながら、その理論はまったく教育現場に取り込まれてこなかったのだそうです。そんな中、海外では言語技術の習得はグローバルスタンダードになっていたわけです。

言語技術の上に母語教育
日本の言語教育の構造を表現する図(三森氏資料より)


「Language Arts」ですが、日本語の翻訳は「技術」となっていますが、「Arts」なので、今で考えれば「茶道(Language Tea)」と同じ「道」があてはまるようです。すなわち「言語を使いこなす道」こそが「母語教育」につながるのだそうです。

三森さん曰く、これからの日本での言語教育は、世界共通の言語技術の上に立って、母語教育(国語教育)や外国語教育をしていかなければならないと考えているそうです。少しでも早く日本の教育現場に、そういった言語技術や母語教育が根付くよう指導を続けています。みなさんのご協力をよろしくおねがいします。


■「日本語のオトと音楽」~合唱曲の魅力~ 信長貴富さん
大学卒業後、市役所勤務を経て、作曲家として独立。作曲は独学だそうです。在学中にも全日本合唱連盟の主催する「朝日作曲賞」に何度も入選するなど、合唱活動を長く続けていたこともあり、作品は合唱曲が多いとのこと。また現在では、歌曲や器楽曲にも積極的に取り組んでいるとのこと。


信長氏講演
信長貴富氏


そんな中、彼が最も興味があるのが「日本語の詞や歌」。言葉の意味や響きから音楽や旋律を導きだすことを手がけているのだそうです。例えば、わらべうた「ひらいたひらいた」を見ると、関東と関西で歌の旋律が全く違うことがわかります。これは、明らかに「ひらいた」という言葉や「れんげ」だったり「はな」だったり、それぞれの言葉の持つ意味や響きが、関東と関西で違っていることを表しているのだそうです。


ひらいたひらいた
わらべうた:ひらいたいらいた(A:関東での音階、B:関西での音階)


こう言った、言葉の音の高低に対して、日本語の特徴として「モーラの等時性(モーラ:拍子=長さが同じ)」というのがあるそうです。例えば「の/ぶ/な/が」それぞれの一文字の長さは同じ。日本語は、モーラは同じだが、音の高低で意味が変わる言語なのだそうです。

音楽では、この言葉の高低に合わせて旋律を作るとより「口語的」な音楽が出来上がり、それを変化させることでより「抽象的」「前衛的」なものになるのだそうです。

信長さんは、そんな手法を使いながら「うたの世界」と「語りの世界」の融合を試みているのだそうです。その代表作でもある「特攻隊戦死者の手記による」という作品を例に、彼の追求する音楽の世界が紹介されました。

信長さん曰く、音楽を日本語で表現しようとすると「歌わずにはいられない」のだそうです。彼のこれからの活躍に大いに期待したくなる記念講演でした。(文:土屋夏彦 '80理電)

第25回マスコミ・ソフィア会総会・第22回コムソフィア賞授賞式

日時:2012年6月30日(土)13:00~17:00
場所:上智大学四ツ谷キャンパス 9号館地下カフェテリア

紫陽花
四ツ谷土手の紫陽花

上智大学正門
上智大学正門

 6月30日(土)13時より、「第25回マスコミ・ソフィア会総会」が、上智大学四ツ谷キャンパス 9号館地下カフェテリアにて、会員約50名の参加の下開催されました。


カフェテリア会場
上智大学四ツ谷キャンパス 9号館地下カフェテリアの様子


 元日本テレビアナウンサーの菅家ゆかり('81文新)さんの司会のもと、新田三千典('59文哲)総会実行委員長の「開会のことば」より第25回総会がスタート。

菅家氏
菅家ゆかりさん

新田さん
新田実行委員長


体調勝れず欠席された濱口浩三会長のメッセージを代読。また来賓からの祝辞として、和泉法夫('70理機)ソフィア会会長から祝辞をいただきました。


和泉会長
和泉ソフィア会会長


和泉ソフィア会会長からは、ソフィア会の各団体の中でも最も活発な会とのお褒めの言葉をいただくと共に、来年に迫った上智大学創立100周年記念行事に向けてマスコミ・ソフィア会の活動にさらなる大きな期待をいただきました。また上智学院の高祖理事長からも祝電もいただきました。

総会議事では、2011年度活動報告、会計報告、2012年度活動計画、予算案提案が、磯浦康二('57文新)幹事長、山口茂('57経経)常任幹事(会計担当)、加藤春一('68経経)常任幹事(監査担当)らから発表および監査報告があり、すべての議事について、満場一致で承認されました。


(2011年度会計報告)


(2012年度予算案)

そして会は、第22回コムソフィア賞授賞式に移り(受賞理由などは発表ページを参照)、コムソフィア賞を受賞された我謝京子(1987外西)(がしゃ きょうこ)さん(ロイター記者で映画監督)、コムソフィア特別賞を受賞された、三森ゆりか(1981外独)(さんもり ゆりか)さん(つくば言語技術教育研究所所長)、コムソフィア賞濱口賞の信長貴富(1994文教)(のぶなが たかとみ)さん(作曲家・編曲家)の3人の方々が順に壇上に上がり、賞状と副賞が授与されました。

我謝氏表彰
我謝京子さん

三森氏表彰
三森ゆりかさん

信長氏表彰
信長貴富さん

受賞者3名
3人での記念写真


コムソフィア賞を受賞された我謝さんには、第1回目から続いている篆刻(てんこく)・刻字作家の横山翠蹊(すいけい)('55文新)さん作オリジナル「刻字楯」も授与されました。今回の文字は「観」(かん)。我謝さんが監督をされていることから「監」という文字に焦点を当て、ここから同じ音を持つ「観」に「物事の実態を注意深く見る心の眼を養う」ことの大事さを込めたということです。

我謝さんと横山さん
「刻字楯」と我謝さんと横山画伯

また、今年は各受賞者への副賞として、元総理の細川護熙さん制作の、食卓でもペン皿としても使える(笑)という「信楽焼のお皿」も授与。これは細川氏と同級の向山肇夫('63法法)コムソフィア賞選考委員長からの特別提供。


信楽焼
細川護熙さん制作の「信楽焼のお皿」


そして受賞後初の記念講演が行われました。
(各受賞者の講演会のダイジェストはこちらを御覧ください。)

また、特別講演会のあとの懇親会では、受賞された信長貴富さんを祝おうと駆けつけてくださった、信長氏も所属していたアマデウス・コールのメンバー有志とOBOGらが、信長さんのタクトのもと、美しい歌声を披露。最後は、会場に集まった全員で輪になって、校歌を大合唱。大変心温まる受賞記念会を営むことができました。

アマデウス・コールの合唱
アマデウス・コールの合唱(信長氏が特別にタクトを振って・・)

輪になって校歌合唱
全員で輪になっての校歌大合唱

また会場では、我謝さんが賛同されている「被災地支援のまけないぞうプロジェクト」より、全国のボランティアのみなさんのタオル一本の支援から作られた「まけないぞう」の販売や、我謝さん自ら製作されたDVD「母の道 娘の選択」の販売もあり、多数の購入で賑わいました。(レポート:土屋夏彦 '80理電)

まけないぞう:HP:http://www.pure.ne.jp/~ngo/zou/index_j2.html
まけないぞう


DVD「母の道 娘の選択」:HP:http://mwdc.net/
MothersWayDaughtersChoice.jpg