2018年1月アーカイブ

 2018年  年頭のごあいさつ

                         上智大学英文学科同窓会 会長 巽 孝之

 

わたしが上智大学英文科へ入学したのは 1974年 4月のことです。

 教授陣がフル参加するオリエンテーション・キャンプもさることながら、大学院の先輩たちによる新入生歓迎会も催されたのを記憶しています。そしてその折に配布されたのが、上智大学英文学会発行の機関誌『英米文学研究』第 18号でした。 B5判タイプ印刷 76ページ、集英社や研究社、旺文社、大修館書店などの広告も多数入りどっしりしたもの。表紙には "--Vol.18--1973"とあるものの編集後記には「 昭和 49年 [1974年 ]1月」の日付が記されているので、 新入生歓迎会の時にはめでたく完成したばかりだったのではないでしょうか。巻頭言が刈田元司先生、論考にはフランシス・マシー先生の J・ D・サリンジャー論や近藤啓子先輩の T・ S・エリオット論、日下隆平先輩の W・ B・イエーツ論、服部洋介先輩のアンブローズ・ビアス論と力作が並んでいました。けれども、驚いたのは、山田豊先輩が堪能なフランス語を駆使してヴァレリー論を、森本真一先輩がのちに比較文学者となる萌芽ともいうべき三島由紀夫論を寄稿していたこと。この学科は英米文学ばかりでなくフランス文学や日本文学にも造詣が深い方々がひしめいているのか、とその幅広さに感服したものです。もともと英文科にはヨゼフ・ロゲンドルフ先生をはじめとして中野記偉先生、カリー先生まで、比較文学の伝統があることを知ったのは、入学後かなりあとになってからのことでした。

 さて、  1958年から18号まで続いたこの雑誌はどうやらこれが最終号だったようですが、その翌年 1975年には上智大学英文学会が発足し、院生を中心とした学術雑誌『上智英語文学研究』が創刊され、これは 21世紀現在に至るまで続いています。同年には、すでに 1969年に発足していた上智大学大学院卒業生を中心とする研究組織がサウンディングス英語英文学会として改組して学術誌『 SOUNDINGS』を創刊し、こちらも健在。じっさい大学院に入ったあとには青山義孝先輩や舟川一彦先輩が、読書会まで開いて懇切丁寧な指導をしてくださったのが忘れられません。上智大学英文科には教授を中心としたいわゆるゼミがないので、このように、在学中はもちろん卒業後も先輩が後輩を慮り、それをさらなる後輩に渡して行く伝統が、以後も脈々と受け継がれているのだと思います。

 以上、個人的な回想をもまじえたのは、われわれの同窓会においても、恩師の先生方はもちろん、シェイクスピア研究会やサウンディングスの先輩方が惜しみなく協力してくださっているからです。昨年 2017年には恩師のうちでもとりわけ同窓会に力を注いでくださった渡部昇一先生とピーター・ミルワード先生がお亡くなりになりました。加えて中世英文学を教えてくださった永盛一先生も帰らぬ人となり、まことに寂しい限りです。

 しかし、奇しくも今年は、 1928年に英文科が発足して 90周年。この機会に、偉大な先生方の学問的業績によって蓄積された見える伝統とともに、先輩たちから後輩たちに継承された見えない伝統についても網羅する英文科 90年史を編纂しようと、いま英文科同窓会の中に特別に設置した編集委員会では準備に余念がありません。早ければ来る 5月の ASFにはお届けできるでしょう。

 どうぞお楽しみに!