蓬田経済学科長 小論文2017.05

連動する世界の諸問題に経済の視点から処方箋を提供する

蓬田 守弘
経済学部 経済学科 教授
ともに発展する方法を探る

 貿易というと、日本の自動車メーカーが海外に車を輸出するように、より優れた技術や高い生産性を有する国がそうでない国へ製品を販売する──そんな連想をするかもしれません。しかし経済学では、別の見方も求められます。

 洋服を例に考えてみましょう。私たちが着ている服の多くは、海外で縫製されています。バングラデシュもその一つです。経済規模や技術力だけをみれば、日本の方が優位なのは明らか。それでも日本はバングラデシュの縫製工場で洋服を作り、それを世界中に輸出しています。それは、バングラデシュに安価な労働力という強みがあるから。企業の競争原理からいえば、より優れた技術を有した会社が勝ち残り、そうでない企業は自然に淘汰されていくはずです。しかし国と国という関係性からみると、必ずしもこの競争原理だけでは語れません。日本は技術力に劣るはずのバングラデシュと貿易することで、より大きな利益を獲得し、バングラデシュもまた新たな雇用の創出に成功しています。

 利益の最大化を目指す企業同士の競争では、勝者と敗者が生まれます。しかし国レベルの視点に立つと、互いに得意分野を生かすことで、どちらも利益を得ることが可能です。世界の国々がそれぞれの優位性を生かし、世界経済全体を発展させていく貿易を実現するには、何が必要なのか。それを研究するのが、私の専門としている国際貿易論です。

一つの政策が世界に影響する

 特に私が関心を持っているのは、地球温暖化対策です。現在、欧州などの先進国では、温室効果ガスを排出する活動に炭素税を課す動きが主流となっています。しかし、その効果は限定的。背景には、世界の国々が貿易を通じて、密接に関わり合っているという現状があります。

 そもそも温暖化防止を目的とした規制強化は、経済を冷え込ませる一因になります。中国やインドなどの新興国が温暖化対策に消極的なのは、まさにこのため。そこで先進国だけが温暖化対策を進めればどうなるでしょう。先進国の生産活動が縮小したぶん、新興国の貿易は活発になり、かえって多くのエネルギーを使うようになるかもしれません。そうすれば、地球全体の温室効果ガスの排出量は変わらないか、むしろ悪化する懸念すらあるのです。

 ある国の政策が、ほかの国の貿易にまで影響を及ぼしてしまう──。世界経済の連動性が高まっている今、地球温暖化対策を有効なものとするには、各国が協力関係を築いていくほかありません。現在、世界の貿易ルールを定めるWTOなどの国際機関では、温室効果ガスの削減努力が不十分な国の輸出物には関税を課すなどの新たな対策が議論されており、その動向を世界が注視しています。

問題意識が経済学を面白くする

 こうした環境保護目的の関税は有力な解決策として期待されていますが、各国の産業特性や人口動態、課税の水準などさまざまな条件が考慮されていなければ、十分な効果は発揮できません。あらゆるシナリオを想定してシミュレーションを繰り返し、最善の施策を導き出す。そうやって環境問題の解決に貿易という方向からアプローチできるのが、経済学なのです。

 経済活動は暮らしに多様な利益をもたらしますが、時に公害や環境悪化などの"副作用"も引き起こします。社会にマイナスの影響を及ぼす副作用を、いかに抑制していくか。経済学は、そんな問題に処方箋を提供することもできる学問です。世界に視野を広げ、社会に対して問題意識を持ち続けてください。そうすればきっと、経済学が面白くなってくるはずです。

蓬田 守弘(よもぎだ・もりひろ)
経済学部 経済学科 教授
米国ロチェスター大学大学院博士課程修了(Ph.D.取得)。一橋大学経済学部専任講師を経て現職。専攻は国際貿易論。「地球温暖化対策と国際貿易」(共編)東京大学出版会などの編著書がある。
 

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