学生時代の思い出(第12回目)- 肥後信彦さん

上智大学法学部卒業生の皆さんの「学生時代の思い出」を不定期に掲載しています。あんな人、こんな人、いろんな人が登場しています。

第12回目は肥後信彦さんです。
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学生時代の思い出 鈴木竹雄先生のこと

卒業後すでに45年も経ったが、鈴木竹雄先生と立ち話をしたときのことが良き思い出として残っている。

私が4年生のころ当時東京大学名誉教授で、商法界の大御所であられた鈴木竹雄先生は、上智大学の教授として学部生にも週一で講義をされていた。日本最高の知性が毎回異なったテーマで時事問題等を法律的に解説する授業は、堅苦しくなく知的な刺激を受けられる楽しみな時間であった。

ある時先生はチッソの水俣病公害訴訟を取り上げられた。被害者が一株株主として株主総会に多数押しかけ紛糾し、マスコミの注目を浴びた事例である。一株株主に株主権はどこまで認められるか、といった内容だったような記憶がある。

先生は、一株株主に一般株主としてのすべての権利が認められるわけではない。総会での発言権は制限されて当然であり、会社を糾弾するために一株株主になるのは本末転倒、といった趣旨の話をされた。

当時まだ青臭い正義感を多少持っていた私は必ずしも納得がいかず、講義終了後同級生山崎君と先生を追い、キャンパスの四つ角あたりで先生を呼び止め質問した。被害者にとってはチッソが門前払いを繰り返してきたためとった行動であり、やむを得なかったのではないか、他にどのような手段をとるべきだったのかと。

それに対して先生は、企業としてのチッソは反社会的であり、このような企業はもう存立自体が難しいだろう、しかしそのことと一株株主の法的問題とは別の話である。時間がかかろうとも正攻法で訴訟の結果を待つしかない、というような趣旨をおっしゃったような記憶がある。

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内容的にはそれだけのことでせいぜい20分程度であったのだが、印象深かったのは先生の我々に対する態度であった。真剣に我々の言うことを聞き、たばこを取り出して一服しながらも丁寧にゆっくりと自説を展開してくださった。その態度はあたかも我々を同等の論争相手として大人扱いしていただいたような気にさせたのである。

いくつかのやり取りの後、「また是非お話ししましょう」と言ってくださり、我々は思い切って質問して良かったとしみじみ思った。

「その後山崎君と私は大いに勉強に励み、先生のところに押しかけては議論したものである」なんてことが全く無かったのは実にもったいなかったと悔やまれるこの頃である。

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肥後信彦
法学部法律学科
1975年卒
住友生命入社・退社

写真など

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