ソフィア経済人倶楽部 2015年講演会 第1回

ソフィア経済人倶楽部 2015年度 講演会第1回  SECは20

日本の農業 現在の問題と将来の展望

SECは2015年度の講演会の第一回として1976年理工学部化学科ご卒業の
シンジェンタジャパン株式会社 取締役会長でいらっしゃる村田興文様に日本と
世界の食糧問題についてご講演いただきました。

日 時: 2015年2月27日 18:30~
会 場: 上智大学四谷キャンパス 12号館201教室

テーマ: 日本の農業  現在の問題と将来の展望
                                     ー 世界の潮流から見た戦略オプションー



村田興文 様 プロフィール:

農薬・種子・GMバイオテクノロジー等、トータルアグリビジネスを推進する国際企業
「シンジェンタグループ」日本法人の取締役会長。
1976年、理工学部化学科卒業後日本モンサント社入社。その後ローム&ハース社
でアジア太平洋地区のマーケティング責任者を経て、取締役営業本部長としてシン
ジェンタ・ジャパンに入り、現在に至る。
また、経団連農政問題委員・農薬工業会副会長・農林水産航空協会理事・日本農産
物輸出組合理事長の公職を数多く務められている。




講演要旨

世界の人口問題は今日現在72億人まで増加、2040年には90億になると予想されて
いる。人口増大による根源的な課題は食糧問題である。飢餓は、経済学的に表現する
ならば基本的な食料の需要・供給のバランスにその端を発している。

 世界の農業可能面積の増加は限界にきているどころか土壌汚染の拡大や水資源の
減少からむしろ減少に向かっている。農業生産性(単位面積当たりの収穫量)はサイ
エンスの進歩、具体的には肥料・農薬・農業機械化分野さらに作物の品種改良・GM
作物の導入により現在利用可能な農地内において収量は最大化してきている、
しかし90億人という2040年までの18億人の人口増に対応できる食糧生産・供給を
担保出来る科学技術の進歩はいまのペースではとても追いつかない。

 一方、発展途上国と呼ばれてきた国々がバランスを欠きながらも国際競争力をつけ
始め、GDPの上昇に比例して生活レベルが向上し、「食生活が改善され栄養状態が
改善されてきた」という表現から、「食生活のレベル向上にともない油糧消費の増大と
肉の消費量が大幅に増大、需要を満たすために飼料の供給が追い付かなくなり国内
自給率が大幅に低下し世界からの調達に頼る必要に迫られている」という表現に急激に
変わり始めたのはこの5年の間である。

世界の食糧問題が日本に及ぼす影響は、穀物の購入価格の急速な上昇、国家による
長期契約や介入、継続的な新興市場の需要増などで食糧安全保障が脅かされている。
一方で自然環境の劣化ストレスの増加で水・耕作地が世界的に減少している。現在の
科学技術で人口90億を養うためには同一面積当たり今の2倍の農産物収穫が必要
=もう一つ地球がいるという意味になる。

21世紀の農業は①多様性(多様な植物をそれぞれの土地で育成し収穫を最大化する)
②水資源(最小限の水で育成)③新たな科学技術の導入④持続的土壌・地勢管理という
4つの挑戦が必要になっている。また、農産物収量増大には①灌漑技術とその機械化、
②肥料・栄養・土壌科学の発達、③農薬による作物保護、④植物種子科学の進化
(精密交配技術・遺伝子技術)という4つの分野での成功が必要条件になっている。

日本はこうした中、「自給率」から「自給力」への政策転換を行い、食糧安全保障の
強化を行う必要がある。日本の食糧自給率(カロリー)は現時点で40%を切っている。
国内の耕地は465万haに対し2.7倍の1245万ha分の食料(輸入)を海外の耕地に
依存している。国内の農業従事者もここ40年で1/4になっている。この影響で耕作地
放棄が40万haに増大。
自給率から自給力への転換は農地の利用度の最大化に他ならない。特に飼料用穀物の
戦略策定は急務といえよう。国内の需要は縮小均衡する前提で政府は輸出ビジネス
モデルのリーダーシップを推進するべき。品質維持と多収化による国際競争力の確保、
飼料等の海外依存を減少させるための多収飼料米への切り替えなどで国内耕作地の
最大活用することが世界の人口増に対応する自然な流れとなってくる。

日本の素晴らしい農地を最大活用していくことが日本の農業・アグリビジネスに関与
する人間の挑戦でありミッションではないだろうか。



講演内容(可能な限り忠実に再録)

Ⅰ-はじめに
日本の農業が世界の中でどういう状況になっているのか、できる限り分かりやすく説明
してほしいというお題が先輩からあった。世界の潮流から日本の農業の状況を説明して
いきたい。
論点としては世界の農業環境は悪化しており、このままいくと全世界規模で飢餓が
生じる。貧富の差どころでなく全人類が生存するための食料の供給すらできなくなる
ことは目に見えている。そのために4つの科学技術分野と4つのグローバル規模での
革新がなければ、その危機からの脱却はできない。世界の中で日本だけが「カロリー
自給率」という言葉を使ってきたが、いまは「自給率」から「自給力」という言い方を始め
ている。これは根本的な政策転換を意味している。自給率から自給力へという言い方を
されたのは自民党の石破衆議院議員が最初。彼は食糧安全保障とは日本の外から
食糧を買ってくる量を減らして、狭い国土を、山を切り崩して農地に変えて食料を生産
することで担保できるのか?それだけで本当に食料自体の自給率はあがるのか?
そんな単純なことに意味があるのか?ほかに考えられることはないのか?常々我々
アグリ産業に問いかけてこられた。現実、食糧安全保障の考え方は大きく変わってき
ている。

 国内の耕作面積、前々から集約する傾向にあったが、これも大きくその転換スピードが
変わりつつある。国内需要は少子高齢化のなかで必要なカロリー数は減少する。日本の
農業は国内需要だけに焦点を合わせていては農業の最大化は達成できない。流れは
国内需要を満たすということから海外に打って出るという戦略に大きく変わろうとしている。
今後10年の中で様々なマイルストーンが用意されている

国際化学企業の合従連衡と自分史

自己紹介、学籍番号は72-7834、理工学部化学科を1976年に卒業後、日本
モンサント社に入社、会社を変わる最後の1997年には営業部門の責任者を務めて
いた。その後ローム&ハース・コーポレーションのアジア大洋地区マーケティング・
開発の責任者を務め、2001年、シンジェンタジャパンに取締役営業本部長として
参加し、代表取締役社長を経て、現在、取締役会長を務めている。公職は経団連の
農政問題委員会委員、日本農産物輸出組合理事長、農薬工業会副会長等を務めている。
1990年代というのは化学の業界にとってはM&Aの連続だった。医薬業界でも同じ
ことが起こっているが多国籍企業の合併・統合が1990年代に急速に進んだ。
1960-70年は外国資本が日本で工場を持つことは許されていなかった。国は日本
企業の業界育成を進め、外資の上陸はある程度抑制されていた。
 90年になってから、上からチバカイギー、下のローム&ハースという会社まで
2001年の10年間でドラスティックに変わった。我々、シンジェンタ社はもともと、
スイスのバーゼル会社というとても歴史のある、錬金術師たちが集まってできた
組合だといわれている
組織が出発点であるが、その後チバ社とカイギ―社、サンド社が一緒になり、ノバルティス
になり、イギリスのICIから変わったアストラゼネカという会社が加わってシンジャンタ
という会社になった。
現在のバイエル、ヘキスト、BASFの母体のドイツ化学業界では大きな発見がなされた。
それは 空気中の窒素を固定化していく技術、窒素を空気からいくらでも作ることができる
という技術で農業用肥料原料だけでなく火薬の原材料でもあることから、イギリス政府が
将来大変な競合とリスクの可能性があるとしてイギリス国内の会社を統合させて一つの
会社を作り上げた。それがインペリアル・ケミカル・インダストリー、ICIという会社である。
それが合併によりアストラゼネカという会社になり、その農薬、種子、バイオテクノロジー
部門とノバルティスの農薬・種子・バイオテクノロジー部門が一緒になり2000年に
シンジェンタになった。
 シンジェンタの昨年の総売り上げは15.1億ドルの企業、75%が農薬で残り25%が
種子で構成されている。非常に利益性は高く世界120ヶ国でビジネスを行い90ヶ国に
現地法人を持ち、世界139拠点で研究開発をしている。

Ⅱ-全世界規模での飢餓の発生と科学技術

1.爆発する世界人口と穀物の高騰・供給不均衡
 世界の農業の置かれている状況だが、世界の人口は72億人を超えている。世界の
人口が70億を超えた段階で我々は不安にさいなまれた。これはもう限界ではないか!
今の技術で人口増に耐えられるかということ。もうすでに90億人までの人口増が予測
されている。人口増に合わせて食糧を増やしていくということではなくて、富裕化が課題。
例えば、中国では豚が最も食べられ世界の半分の豚が中国で飼われている、また、油で
いためる、そこで必要な飼料特に大豆油の搾りかすを中国は国内で賄うことを戦略の
中にいれていない。 中国は1980年代から90年代の初めまでは食料はすべて自国で
賄えるとしてきた。しかし現在世界で最大の大豆の輸入国は中国。日本の商社が仲立ちし
アメリカ、ブラジルの大豆の80%以上をこれから10年は中国が契約済みで、これから
他の国が新規で買うことはできない。

 農業に直接関係する自然環境は1970年から2012年までに何が起きたかというと、
それに対して価格がどう推移したかをみるとコメの価格、大豆、小麦、トウモロコシ、
2012年8月の段階で、世界の農業関係の統計は2~3年程のタイムラグが生じる。
これは各国が同じような統計をきちんと出しているわけではないので現時点では2012
年のデータを出している。

参考資料-1をご参照下さい:最後部に掲載

2008年の米の価格をみてみると過去最高の1トン当たり1000ドルを超えた。
2012年では2006年から約2倍になった。ダイスは3.2倍、小麦は2.3倍、
トウモロコシは3.6倍になった。これによって何が起きたかというとアフリカなど
新興国が穀物を輸入できなくなった。急激な飢餓が始まった。穀物の供給、価格は
非常に乱高下する。これが何に問題を起こすかというと先進国だけの問題でなくて
自分たちがビジネスとして農業をやっている側が種を買うべきか、買わないか、肥料を
予約すべきか否か、投資をするので作る側も買う側も大きな問題を抱える。そこで出て
くるのは政府の介入。米国は2度、国外への輸出を停止した。ベトナムも数回にわたって
輸出を停止している。中国は人間が食べるため、飼料に使うためのトウモロコシを確保
するために国内での穀物からエタノールを作る工場を一斉に停止した。

もうひとつ大きなことはストック。年間必要な国が備蓄しなければならない量、備蓄
量があるがFAOがいっている安全領域は最低、年間必要量の17%から18%、1.5
~2カ月の備蓄がいると言っている。生産量は上がっているが需要も上がっており、
在庫量の確保が難しくなってきている。
実際に農地として使える面積は増えていない。実はブラジルにはアマゾン含めて農地に
転換できる可能性のある土地は存在するが水と空気が問題、グローバルな空気中の
二酸化炭素のバランスを考えたときにブラジル政府は国連との話し合いでできる新しい
開墾は抑えるとしている。それぞれの地域で新しい農地が生み出されてはいるが、
一方で農地として使えなくなっているところがそれ以上にどんどん増えてきている。
ここではっきり言えることは農地は増えていないが生産量、単収は上がっていると
いうこと。これは農業が果たす重要なポイントになっている「種」の品種改良が大幅に
進み。次に肥料も、どのタイミングでどういう肥料を使うか、有機肥料も含め組み合わ
せで収穫が上がることが分かってきている。また植物の保護という意味での農薬、
農薬の発達のおかげで病害虫の被害を防ぎ、もっとも大変な除草という手間のかかる
プロセスが楽になった。もう一つは機械化。機械化は重要なポイントで繊細な機械を
使うことで全体として単収をあげることができるようになった。

2.21世紀農業の挑戦
 世界規模の飢餓の発生を食い止めるには大きな4つの科学技術部門での革新が必要だと
申し上げた。単収は上がってきてはいるが世界でのリスクは人口の増大と農地の限界と
いったが、もっと大きなストレスが地球にかかっている。グローバルで議論されているが
これは自然環境の劣化ストレスで気候変動の影響をどれくらい受けるかということ。19
50年代に1haで養う人数は2人ですんだが現在は5人を養う必要がある。地球の温暖
化に並行して水が減少し、その影響で可能耕作地が確実に減少している。リスクの高い
ところはほとんどの地域である。

 その中で水資源について警戒領域になっている特に中国、北京・上海の近辺からずっと
西に至る山のところまで、この地域は渇水状態になっている。 揚子江も黄河も断水と
言っているが河川水が海に届かずに途中で干上がってしまっている。
オーストラリアでは人の住んでいないところはいいが実際人の住んでいるシドニーは最悪
の状態で問題化している。今は家庭で使った下水を浄水化して再利用するというぎりぎりの
ところまで来ている。アメリカではテキサスやメキシコから北の部分では相当な水問題が
出ていてトウモロコシの作付ができなくなっていることが大きな課題になっている。カリ
フォルニアの干ばつも。それから北アフリカ、サウジ首長国連邦でも人が増えている割
には供給が増えていない。
人間が生きていくために最低限の食を維持するために必要な地球の環境を考えると
人間を食べさせることはもう限界にきている。これをあまりに世界の人間が意識して
いないということに大きな問題があると考えている。

もうひとつ覚えておいていただきたいことは将来90億人の人間、一部では100億
という数字も出てきているが今の科学技術ではとても賄うことができないというのが
本当のところ。どんなにいい品種の種をつくっても今の技術と農地面積では90億の
人間を食べさせることはできない。現在の農耕地は15億6255ha、一番大きな土地
を持っておいるのがインドで1.7億ha、ついでアメリカ、中国、ロシアと続くが日本は
450~480万haしかない。
いつも2という数字をいうのですが90億人のひとを満たすのは倍の農地が必要だと
言っている。

参考資料-2をご参照下さい:最後部に掲載

①多様性(Biodiversity)
 では、どうするのか?4つの分野への取り組み。21世紀の農業を、より収量を増やし
安定的にするには4つの大きな挑戦がいる。可能性というべきかもしれない。英語で
言うmore with less最小からより多くを!いかに小さなユニットから多
くの物を生み出すことができるか、その中で重要なことは多様性ということの技術と挑戦だ。
我々は単純にお米、小麦粉、大豆を食べているが、地球上で食べられている穀物は
約200種類から300種類になる、粟、稗や少数民族が食べているものも含めているが。
大事なことは地球全体がそれぞれの地域にあった作物があって、今まではこれに頼って
きた。ところがそれを尊重しないがために何が起きたかというと、大量に作ることができる
ものに食物を依存してしまっている。ヨーロッパと比較して日本はそのいい例だ。日本は
韓国に似ているがいつのまにか、食生活がどんどん欧米化してしまった。昔の食生活で
あれば日本人はお米を食べて十分生きていくことができた。しかし、小麦の需要が急に
増えてしまった。ヨーロッパではなぜ、それが起きなかったかというと、彼らは食生活が
全然変わっていなかった。極端なことを言うと、100年から200年の間、食生活が
変わっていない。日本は100年でドラスティックに食生活が変わってしまった。本来
日本人が、韓国人が、自分達が自分たちで食べていくことができるように先祖が育て
てきた食文化をまったく異なる食生活に合わせようとしたものだから自分たちでつくる
ものを作ることができなくなった。日本で小麦を欧米並みの量を作ることは不可能。
我々が大事にしなければならないことは植物なり動物の多様性をもう一度見直すと
同時にそれぞれの地域での食生活上、そこの国民が生きていくために必要なものは
何なのかを見直さなければいけない。
逆にそこにある植物なり動物、作物をもう一度見直して、それを増収することが可能
なのではないかを考える。小麦と大豆と大麦、トウモロコシ、米、それだけではないので
はないか?それ以外のもので食べられているもの、それを増収することができるなら
食糧問題はその地域で解決できるのではないか。そこまで考えるべき。

 そして、大事なことは農耕地が決して自然環境ではないということ。よく農地が自然だ
といわれるが、農地は人間によって加工されてしまった農業用の耕作地。逆にいうと、
それが自然の中に存在するわけだから使い方を誤ると自然を壊してしまう。例えば大量
の化学肥料をそこに投下してしまえば、当然、河川流域の河川が汚染されてしまう。
農薬自身も使い方を誤ると本来その農地、地域だけで使われるべきものが、ほんとの
意味で守られなければならない。自然に飛散したり、流れ出ていってしまうとそこの
環境を破壊してしまうことになる。そうした意味で地域の環境を守ることと、食糧を増産
すること、その二つを両立させることにもっとセンシティブにならなければいけない。
その気持ちを農業者、その産業に加わる人間は意識する必要がある。

②水資源
 もう一つは水資源。これは世界の中で日本ほど豊かな国は珍しいと言われている。
川上から川下まで標高差があり距離が短いということで水の純度は非常に高いレベルが
維持されている。もうひとつは山があるということで保水力を持っている。重要な事は
水資源には限度があるということを意識すると同時に水資源を最少活用して植物を育
てる技術がいる。残念なことにこれだけ雨が降るからか、水をやらなければ枯れてしまう
埴栽、街路樹にいつもに水をやらずに植えつけられ、その結果枯れる。なぜ、灌水シス
テムを置かないの。灌水技術があるのになぜ使わないのか。欧米では灌水システム
があるので一日の中で小さな雑灌木のしたに朝なり夕方に数滴、一分間に二滴か三滴
の水を出すだけ。それを一時間だけ。水の量はたかが知れている。それだけで植物は
十分生きていける。かえって水を求めるから根は伸びる。それは農地でも同じことが
言えて、農地でも散水機で水をまく時代ではない。マイクロドリップ点滴でやって
いくような技術が主役になっていくのではないか。もっと水を大切にしていくという
流れが必要。

参考資料-3をご参照下さい:最後部に掲載

③新たな科学技術の導入
 科学技術の導入は必須。ヨーロッパでは自分たちが十分な生産ができるのでバイオ
テクノロジーはつかわないという。しかし、重要なことは豊かなところではなくて中東、
アフリカも含め食糧の供給を受けることができない地域でどうやって食糧を作ればいい
のか。そこで生かせる本当に必要な科学技術がバイオテクノロジー。新たな科学技術は
乾燥に耐える作物、塩害に耐える作物、ポテンシャルとしてはまだまだある。初期の段階
だが農業が直面する課題を解決する技術の研究は進んでいる。

④持続的な土壌/地勢の管理
 土壌の管理、地勢管理と書いてあるが、ここで言いたいのは例えば、中国は1億20
00から3000万haの耕地面積があるが発表では16%、メディアではその倍にあたる
1/3は水銀、カドミウム等重金属の土壌汚染を受けていることを中国政府が公表して
いる。ということは中国で生活している人が口にしている農産物の三分の一は汚染され
ていて、かつて日本が乗り越えることができなかったイタイイタイ病と同じポテンシャル
に中国の人々は直面していることになる。残念ながら中国政府はどこでの調査なのか
公表していない。
いま大きな問題になっていることはどうやってそれを除去するか。土壌からの除去技術を
どうすれば日本から導入できるかということでその技術を欲している。そのために民間
ベースの話は始まっている。
 地勢管理は政治が絡むが、インドと中国の国境には蛇行した川の流れがあるが最上流
にあるのは中国で、中国がダムをつくるとインドに水が流れなくなってしまう。中国が
やろうとしていることはその水の流れをできるだけ、フェアーにという言い方をしているが
揚子江の上流なり、黄河の上流に導いていって彼らの渇水状態を解決したいというが、
そうするとインドが困ってしまうことになり両国間の火種になりかねないことで両政府が
慎重な議論をしている。このように水の管理は土地の管理と同じように大事な問題で
ある。

参考資料-3をご参照下さい:最後部に掲載



3.食糧問題解決への4つの科学技術
 先ほどの話を簡単に整理したい。まず、われわれの業界からみた課題を解決する方法
として①灌漑技術、②肥料栄養と土壌の科学それから③作物保護、④食物・種子の科学、
この4つの科学分野での成功が将来の必須条件になっている。灌水の技術、世界では
イスラエルの技術が最も早く始まり進んでいる。イスラエルがこの技術では世界NO.1、
次がアメリカとなっている。日本も技術がすすんでいるが、大規模の実験がされて
いない。また、肥料・栄養・土壌では過去の緑の革命ということで化学肥料をあげる
ことで収穫が増えたが、インドのように肥料を過剰に与えることで土壌の塩化が進んで
しまって作物ができなくなってしまうことがおきた。 
 あと、作物保護、これは農薬の長い歴史の中で硫黄を燃やして虫、病気に対処した時代。
農薬がなぜ危険だといわれたか、DDTとか水銀剤等の昔の人畜・環境に対するリスクを
考慮しない時代の薬剤と現在は雲泥の差があり、現在の作物保護の為の農薬は医薬品
以上に人や自然環境に対しての安全性を担保した物のみが市場にだせる。作物を保護
するための技術、農薬の開発によって作物の収量を増やすこと作物の質を高めることが
できるようになっている。例えば、田んぼでの草刈、農村医学学会で報告されていること
だが、今地方でも腰のまがっている人は多くない。これは除草剤の発達のおかげ。考えて
みていただきたいが10アール、一反の畑、田んぼ1千平方メートル333坪の土地を
毎週、夏に手で草を取っていくことを想像できるだろうか?庭の雑草を取るのとはわけが
違う。私自身の経験だが、新入社員の時、会社の研修で自分用の実験の田んぼの除草剤
の使用設計をしたときに、薬を使う区画を小さくして作業を楽にしようとした。薬を使わ
ない面積を多くとったわけだ。
 これが大きな間違いだった、薬を撒かなかった部分の雑草を全部手で取って重さを計り
薬を処理した区画の雑草の量と比較することが基本であったことを後になって知った。
その結果、草取りが完了した後、三日間、腰が痛み、腰は曲がったままだった。これは
大変なことで、除草が農家の方の腰椎に負担をかけ続け、その結果腰が曲がる原因に
なっていたことを知った。今は一年に一回から二回、除草剤を田植えの後に撒くだけ、
しかも田んぼに入る必要もなく畔から錠剤を投げ込むだけで処理ができる時代、実際には
65年前に一年間で50時間かかった10アールの水田の除草が今は最短30分。ずい
ぶんと楽になった。

参考資料-4をご参照下さい:最後部に掲載

 あとは植物の種子、交配技術。実は種を征した企業なり国はすべてを征すると昔から
いわれている。昔種は国や地域から門外不出といわれていた。種を作るときに必要な
ものは原種、原原種、これが植物の多様性で問題になったのだ。例えば、トマトにしても
コメにしても源流をたどっていくと中南米とか中国にその源泉が見いだせる。そういった
ところにはもともとの原種、他と何も混じり合っていない種がある。その種類を多く
持っていることが重要な点で、あるものは背が大きくなるけれど穂が出ない、非常に
短いけど穂がいっぱいできる。あるものは穂が少ないけれど芽が大きい、そういう種類の
種がある。それを掛け合わせて新しい種を、品種を作り出していく。通常メーカー,
あるいは国が持っている原種、原原種の数がどれくらいなのかによって将来の種の
開発力を推し量ることができる。日本は筑波に原種、原原種の保管倉庫があるし、
メーカーも同じように持っている。そこが交配をして新しい種を作っていくわけだが交配
する方法には二つある。ブリーディングといわれる精密交配技術と遺伝子技術の二つに
大きく分かれる。精密交配技術とは簡単に言えばおしべとめしべによって新しいものを
つくる。出来上がったものを選別してそれを種として栽培する。同じものが作れるか
どうかがおおきなチャレンジになる。ソメイヨシノがなぜ一斉に花が咲くのか、実は
あれはクローンであるから。植物の世界ではF1という言い方をする。F1は一代限り
その性格を持っている。ソメイヨシノを作った技術はすごいと思うがソメイヨシノの
クローン、株がずっとすべて同じ遺伝子を持っている。同じ遺伝子を持ったサクラ
だから咲くときのメカニズムは同じになり、一斉に花が咲く。ヤマザクラはいろんな
種類があるいが一斉には咲かない。野菜はほとんどがF1で作られているハイブリッド
である。
 野菜は遺伝子技術の領域には入っておらず、ハイブリッドで作られている。野菜は
収穫期が一緒でないと困る。嬬恋では収穫は朝早く、ライトをつけながら一斉に収穫
していく。やるが一定時間収穫するピタッとやめる。休んで、また、夜から収穫するが
これは種を植えたタイミングのズレと同じズレで収穫が微妙に違う。日本人は几帳面
なので一つの箱に6個入らないとだめ。その時のとれたキャベツの外葉を外して箱に
入れると同じサイズでぴちっと入る。三浦の大根もF1。これは長さがすべて一緒、
ただ太さは違う。
 その中でも新たな技術が出てきているのが遺伝子のマッピング。遺伝子の中でどの
遺伝子を持っている大根とどの遺伝子を持っている大根を掛け合わせれば甘みの
強い大根ができるかとか、丸くて紫色の大根ができるか等が可能になる。ブリーダーは
職人ではなく芸術家、技に頼っていいてはとこも継承できない。ところがそれが今は
可能になってきている。
 もう一つは、今、開発されているのが耐乾性、水のないところでも育つ小麦、大豆、
水の少ないところでも収量の上がる陸稲といったものの研究が進んでいる。すでに
遺伝子の中のできているのは耐虫・耐病・耐干、耐塩といったものに加えて、耐有機
ガス。耐有機ガスは温暖化で永久凍土が融け始め、ツンドラが融けるメタンガスが
出てくる。メタンガスが出る土地を耕地に変えることができないかということで、メタン
ガス対応の品種がないのか、現地でも育つ植物の遺伝子の研究が始まっている。
 遺伝子のマップというのは非常に大事な技術としてウエイトを占めてくる。全世界の
技術者が同じマップを使うがその遺伝特性の研究は企業や国のレベルでことなり特許に
守られた市場での戦いになっている、ブリーディング・交配技術でやっていくのか、
それともスピードアップできる遺伝子技術GMでやるのかはこれからの必要性、スピード
要請で決まってくると思う。

 ここまでで、申しあげてきたことは、日本の自給率から自給力への転換ということ、
その背景にはさらに重要な世界の農業環境自然環境が劣悪な状態になってきている
こと。この点はご理解いただけたと思う。
水の問題に代表される環境異変、農地は劣化し農地を増やす余地はもうほとんどない。
更に富裕化による食生活の改善、70-90億の人類を育てることの困難さは明確。
それを解決するための技術はまだ、完成されていない。ただ現在研究中のテーマが
多くあるとも申し上げた。一つには灌水技術、さらに土の管理技術も今すぐとりかかる
ことができる。新しい技術では作物の遺伝子マッピングが大事であり、これによって
植物の交配は経験則からサイエンスに代わってきている。ただ、マッピングからブリー
ディングへ人工交配を使っていくのか遺伝子操作をさらに進化させていくのか、ここが
これからの議論だろうと思う。

4.自給力への政策転換が食糧安全保障の強化に!
 さて、日本は今後、どうなっていくのだろうか?国は耕作面積および農地集約率を
最大化していくという方針を明確に打ち出している。これは新聞等でよくご覧になって
いるように昭和40年以降の食糧自給率の推移は、昭和40年、カロリーベースで
自給率は73%だったが、現在は39%。おやつに食べているものもおにぎりだった
ものがパンに代わってきた。食糧の自給率で覚えていておいていただきたいのは肉を
1キロ作り出すのに牛肉なら必要な飼料は11キロ、豚肉は7キロ、鶏肉は4キロが
必要、そのための主要飼料であるデントコーンが残念ながら日本にはない。全人類が
食べていくためには地球が二つ必要といったが日本はすでにそうなっている。

参考資料-5をご参照下さい:最後部に掲載

 日本の耕作地面積は465万haだが、実際、我々が食べている量、海外に依存して
いる量はその2.7倍で1245万ha分の土地から生まれるものを輸入している。これが
現状である。田畑は50年間で25%減っている。コメ政策の閉鎖性が遠因とされて
いる。
これは日本人の食べるコメの量が減ったのだから減反だ、休耕させろという流れが進んで
現在の状況になっているといわれている。また、農業従事者の高齢化と後継者不足とも
いわれるが農業就業人口は昭和45の1025万人から平成26では226万人となった。
昭和45年はちょうど人口が1億人になった年であり、10%が農業従事者であったという
ことになる。現在の226万のうち、年金受給者65歳以上は64%になっている。
また、耕作放棄地は40万haにまで増えてしまっている。農業の出荷額は8兆5742
億円となっている。

 ある経済学者によると日本は決して農業後進国ではない、なぜなら、生産額は非常に
大きいからだという。計算上は一理あるが為替や国民の生活レベルの高さからくる
高価格を受容する国力も加味しなければならない、食料の物価は高い。
考えていただきたいことがある。日本が今、大きく変わろうとしている中で、この8兆
5742億円の90%を生産しているのは農家の10%である。10%の農家が90%の
生産貢献をしている。実際、水稲農家で兼業農家が人口として一番厚い、ここの部分
への政策をどうするかによって流れが大きく変わっていくことになると思う。来月には
TPPが決着するといわれている。残っているのがコメのミニマムアクセスなどがあるが、
早期の決着がいわれている。(本文掲載時点でTPP未締結:注記編集者)

 穀物の自給率は穀類の28%が、コメは95%、小麦が11%、大麦7%でトウモロ
コシは実は0。これは大きな問題で、皆さんが食べているトウモロコシはスィートコーン
で野菜の範疇に入る。資料はデントコーンというがこれは輸入に頼っている。デント
コーンは飼料として開発されていて手に取るとあっという間に種がバラバラになる。
大豆は7%。日本からアメリカにもっていった農産物は2種類でペリー提督が持って
行ったといわれているのが大豆、その後、砂漠のテキサス等でカバープロップといわれ
ているのが「葛」。アメリカでいわれているのは大豆は日本から輸出して成功したが、
葛は屑だといわれている。すごい繁殖力で恒久施設を被覆してしまって、おかげで
除草剤が必要になった話がある。果物は38%だが、これは自給率が減ったという
よりもバラエティーが増えたということ。

Ⅲ-日本の戦略~農産物輸出ビジネスモデルへの転換

 日本の農業は悪いとは言い切れない面もあるが重要なのは農産物の輸出量で、
この表(資料-6)でオランダとイタリア、日本を見てほしい。オランダはオランダ型農業
とも言われていて九州よりも小さな面積で世界2番目の輸出金額になっている。一方、
輸入金額はフランスの下で輸出国でもありながら輸入国でもある。オランダはビジネス
として農業を割り切っている。自給率を上げようと思っていない。パプリカ、トマトに
関しては圧倒的な優位に立っている。東欧では白いパプリカを食べるがその白い
パプリカでは世界一の輸出国になっている。オランダはEU、東欧含め地続きで
ロジスティックスに障害がない優位性がある。オランダは作物を限定した生産をし、
ハウス栽培が殆ど。もう一つは世界の花の中継基地。実際、オランダは花の生産地
でもあるがアフリカで作られた花がオランダ経由で世界に送られていっている。
そういう方向で行くのかもうひとつはイタリア。イタリアはパスタ用の小麦は輸入し加工
してイタリアンパスタのブランドで輸出している。トマトも同様。
 日本は世界で輸出に関しては55位、まだまだ、輸出の余地がある。逆に輸入は米国、
中国、ドイツに続いて世界第4位。

参考6をご参照下さい:最後部に掲載

1.内需自給率から自給力強化へ
 今、やろうとしていることは集中から拡大へ転換。日本は全世界の上位6か国(台湾、
香港、中国、韓国、シンガポール:2012年)に75%を輸出してしまっている。
今年のミラノ万博にかける国の勢いはすごいもので、今年は75億円の予算をかけて
そのうち50億の国費を使っている。通常は経済産業省が主管で関連機関とともに参加
するのだが、今回は農林水産省が初めて万博を取り仕切った。今回のテーマは「文化」、
食という文化の戦いの場と位置付けている。
 このあと2018年に日本でラグビーの世界選手権が行われて2020年のオリンピック
を迎える。重要なポイントはロンドンオリンピックでオリンピックでのレストランに納入
できる農産物は安心・安全であるものを担保されたものに限ることになった。という
ことで第三者認証を取れという新たなビジネスモデルが出来上がってしまった。日本は
日本の農産物が安心・安全であることを第三者認証で判定しなければならない時代に
なっている。
*ミラノ万国博覧会:2015年5月1日~10月31日まで184日間ミラノで開催。
テーマは「地球に食糧を、生命にエネルギーを」。注釈:編集者


2.輸出促進による農地の最大活用へ
 これからの日本の農業が生きていく方向性は世界の中では内需自給率から自給力の
強化へということ、この方向性は明確になっている。日本の農産物の品質の良さは世界で
トップクラス、ただ、日本の農産物のように甘さを求めているのが最高だという考えは、
西洋料理含め、市場調査であきらかになっているが甘いものは拒否される。西欧人は
油っこいものを食べた後、リンゴで口の中をさっぱりさせたい。中近東ではスイカが沢山
食べられている。そこで日本の甘いスイカはうれない。彼らにとって水と同じ物、糖度が
高いものは受け入れられない。それぞれの国でどういうマーケティングを展開していくか
大きなチャレンジになるだろうと思う。

3.最後に
日本は土地を休耕させていくことは許されることではないと思っている。日本の素晴
らしい農地を最大活性化していくことがこれからの日本の農業関連・アグリビジネスに
関連する人間の挑戦でありミッションだろうと思う。その中で重要なのは経済人、他の
産業界との連携が重要でさらなるマーケティング展開と海外に輸出をしていくことを
考えれば海外で成功している事例・ノウハウを積極的に取り入れていく必要があり、
その動きは始まっている。  
世界の飢餓を救うためにはそれぞれの国が収量を最大化して食糧を全世界に供給
できるようになることが必要だと思っている。
以上




ご講演後の質疑応答は以下の通りです。
Q1.日本でも規制緩和の動きなかで認証については非常に早くなってきていると
   聞くが、農薬については規制があったり規制緩和されたりということは起きている
   のか?
A. 医薬の業界とは連携を取っているが、厚労省含めスピードアップはされているが
   欧米に比べてみると実際にはデータを出してから審査が下りるまでの時間はまだ長く
   かかる。農薬の場合には他の国より時間がさらにかかる。これは環境に対するリスク
   アセスメントがより厳しいということと。OECD先進国ではさらに高いハードルが高く
   なっていて、平均化するのではなく、一時に食べる量と残留農薬のデータが求められる。
   政府もそれに対応すべく次の審査を始めている。農薬は医薬よりもさらにハードルが
   厳しくなっている。医薬の場合は患者がリスク・副作用を理解したうえで薬を服用
   するが、農薬の場合は食料を購入し食べる消費者に対するリスクを限りなく小さくする
   必要がある。使用される場面からは環境に対するリスクをやはり最小限にとどめる
   必要性がある。

Q2.90億人になった時に世界の飢餓がないように食糧は供給できるのか、そのため
   には何が必要なのか?
A. 3つのテリトリーでの議論がある。ひとつは人口が多い中国が自国内で食糧自給が
   できるレベルの技術・能力を持つようになり。過去からの汚染された土壌をクリーン
   アップでき、中国が農産物を自給且つ輸出できるようになればアジア地区は安全と
   いえる。
   二つ目はインドの収穫量が今の1.5倍になれば、あくまで計算上の話ではあるが、
   北アフリカはカバーできる。南アフリカの人口を賄うためには永久凍土が融けた
   東ヨーロッパ、ロシアの土地で農産物を作ることができれば大丈夫だろう。あくまで
   マクロでみた場合の計算上、机上の技術的な話ではあるが。 

                               質疑応答は以上です。



村田様、貴重なご講演、ありがとうございました。
以下、会社のご厚意で当日のご講演資料の一部、ご許可をいただき掲載させて
いただきます。文中の参考資料-Xと対応しています。

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参考資料ー1


参考資料ー2


参考資料ー3


参考資料ー4


参考資料ー5


参考資料ー6



 

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