2014年10月アーカイブ

 理工学部同窓会が理工学部と連携して企画し、理工学部卒業生を講師に迎えた「キャリア形成教育科目(つくるI)」が始まりました。

 109日は、味の素株式会社理事広報部グローバルうま味コミニュケーション担当の二宮くみ子氏(化学科1980年卒業)が「うま味概念の理論とグローバルコミュニケーション」というテーマで講義を行いました。

 履修希望の学生(全学部対象)は定員の200名を超え、抽選が行われたとのことです。当日は同窓会関係者や大学関係者の聴講も含め、210席の教室は満席となり熱気を感じるほどの盛況でした。

 

tsukuru 1.jpg
教室全景

 

 以下に講義の概要を紹介します。

 

おいしさとうま味

「ここに"うま味調味料味の素"がありますが、これは"うま味"が発見されなかったらできなかった商品です」という二宮講師の言葉から講義は始まりました。

 最初は、世界各国のさまざまな食品の写真をみながら、どのようにおいしさを感じるかを考えていきます。人間は環境・食習慣や食文化・体調などの影響を受け、五感全てを使いおいしさを感じる。そして五感の中の味覚には甘味・酸味・塩味・苦味・うま味があると説明されます。

 また感覚的な美味しさの程度を表す言葉である「旨味」と科学的視点からみた、ある特定の物質の味質を表す「うま味」を使い分けています。

 そのうま味を発見したのが日本人研究者池田菊苗博士でした。

 

tsukuru 2.jpg


 ここであらかじめ配布されていたミニトマトの試食が行われました。池田博士と同じくトマトにどんな味があるのか感じ取ってみようとの提案です。

 20回以上よく噛んで注意深く味わってみると、甘味・酸味・塩味・苦味を感じますが、食べ終わったあと、舌の上に残る後味を感じます。これが「うま味」です。

 うま味には、持続性がある(酸味、塩味、甘味よりも長く続く味)、舌全体に広がる、唾液の分泌を促す(酸味を感じたときよりも長時間唾液がでる)という三つの特徴があります。

 

tsukuru 3.jpg
配布されたミニトマト

 

 

うま味と唾液分泌

 酸っぱい物を食べると唾液が分泌されることは知られていますが、うま味によっても唾液の分泌が促進されます。うま味が持続性があるため10分間で比較すると酸味よりもうま味の方が分泌される唾液の量が多くなります。

 今唾液はすごく注目されています。消化・溶解・洗浄だけでなく抗菌などさまざまな役割を果たしています。高齢者で問題となるドライマウスという唾液が減る症状では、おいしく食事ができなかったり口の中の衛生状態が悪くなったりします。また味覚異常の人では唾液分泌量が半分ほどになり、食欲減退や体重減少などの悪影響が出ますが、その患者に10ヵ月間うま味のある食材(昆布茶でも良い)を摂取する指導をした結果、唾液分泌量が増え味覚が正常になることも報告されています。薬を使わず治療ができることで注目されています。

 

食品中のうま味成分

 昆布だしからグルタミン酸塩のうま味を発見した池田博士に続き、小玉新太郎氏がカツオだしからイノシン酸塩を、國中明氏が干し椎茸からグアニル酸塩のうま味成分を発見しました。また國中明氏はうま味成分を掛け合わせるとうま味が7〜8倍にもなるという「うま味の相乗効果」も発見しました。

 

tsukuru 4.jpg


発酵食品とうま味

 チーズなどの発酵食品にはうま味成分のグルタミン酸が多く含まれていますが、原料のウシのミルクにはほとんどありません(1mg/100g)。ミルクの中のタンパク質が発酵によりアミノ酸に分解されてうま味が増していくのです。発酵の期間が長いほどグルタミン酸が増えていきます。

 他の動物と違い、母乳には19mg/100gのグルタミン酸が含まれています。生後数日の母乳よりも3ヵ月頃の方が増えることもわかっています。これがどんな意味を持つのか現在研究が進められています。

 また乳児も味覚を感じることが実験で明らかになっています。

 

tsukuru 5.jpg


うま味の活用

 うま味は国際語になり"Umami"と表記されます。ユネスコの無形文化遺産に「和食」が登録されましたが、「うま味」を上手に使うことによって動物性油脂の少ない栄養バランスの良い食生活を実現できるため世界各国の料理人から注目されています。

 

tsukuru 6.jpg


 講義の最後に、食文化(この言葉も味の素の造語)の普及、啓発および研究支援を実施するための味の素株式会社の取り組みが紹介されました。

 グルタミン酸およびうま味の研究は、食品化学だけでなく味覚心理学、味覚生理学、大脳生理学、栄養学などの研究者のネットワークで世界に広がっています。今回の講義の内容も、これらの研究によって科学的に証明された事実を紹介したものです。

 

 二宮講師は最後に、「発信する情報がサイエンスベースであることを忘れてはいけない」と強調していました。

 

 約1時間の講義終了後、質疑応答に入りました。うま味やグルタミン酸に関する質問のほか、味の素の海外事業の質問や二宮講師の学生時代の研究との関連、英語での苦労など多岐にわたる質問が相次ぎました。講義終了以降も講師を囲み熱心に話しかける学生も姿が多く見受けられました。

 
 

tsukuru 7.jpg

講義終了後、学生と話す二宮講師

上智大学理工学部同窓会会長 池尾 茂

 

同窓会員各位におかれましては益々ご清栄のことと存じます。この度下記要領で上智大学理工学部同窓会講演会・会員大会・懇親会を開催する運びとなりました。講演会では,宇宙航空研究開発機構(JAXA)元理事の坂田公夫氏、NHK放送技術研究所前所長の藤澤秀一氏(お二人とも理工学部OB)よりご講演をいただきます。講演会の後に会員大会を行い、2013-2014年度事業報告および会計報告ならびに2014-2015年度事業計画および予算についての報告を行います。その後懇親会において同窓会員の親睦を深めたいと考えております。当日はソフィア祭期間にあたりますので、久々に学園祭の雰囲気を感じながら旧交を温めてはいかがでしょうか?万障お繰り合わせの上ご出席賜りますようご案内申し上げます。

 

1.講演会               

<日時場所> 2014111() 150016:30 

            上智大学2号館17F 1701会議室

  <講  師> SKYエアロスペース研究所所長

              (元 宇宙航空研究開発機構 理事 )

             坂田 公夫氏(1969機械工学科卒)

 <演  題> 「我が国航空宇宙の先端と高速機の研究開発」

  <講  師> NHKエンジニアリングシステム研究主幹

              (前 NHK放送技術研究所 所長)

             藤澤 秀一氏(1979電気電子工学科卒)

 <演  題> 「進化する放送への挑戦(4K、8Kの動向)」

2.会員大会     

<日時場所> 同日 164517:25 

            上智大学2号館17F 1701会議室

<報告事項>

(1)2013-2014年度事業報告、会計報告

(2)2014-2015年度事業計画、予算案

3.懇親会

<場  所> 同日 175019:10 上智大学2号館5F 食堂

  <会    費> 4,000

 

参加申込方法:

ソフィア会ホームページの「イベント」または「ソフィアンの広場→理工学部同窓会」において、「理工学部同窓会 講演会・会員大会・懇親会開催」に関する記事をお探しいただき、これらのお知らせよりリンクされている「参加申込はこちらから」をクリックし、必要事項を記入の上お申し込みいただいた上で、懇親会費の振込をお願いします。(当日受付にてお支払いも可能ですが、混乱防止のため、なるべく事前振込をお願いします。)


詳しくはこちら

http://www.sophiakai.gr.jp/news/faculty/2014/2014110101.html

 

振込先:ゆうちょ銀行 口座記号番号 00120-6-790212 上智大学理工学部同窓会

ATMからは〇一九(ゼロイチキュウ)店 当座 0790212

なお、振込手数料はご負担願います。

 

ご注意:当日はソフィア祭期間のため、2号館への立ち入りが制限される予定です。そのため、会場へおいでの際には上記参加申込終了後に送付される受付完了メールをプリントアウトの上ご持参いただき、2号館入口で担当者にご提示の上入館し、17F受付で再度ご提示下さい。


申し込みはこちら

http://www.sophiakai.gr.jp/form/fid_143.html

 

問い合わせ先:上智大学理工学部同窓会事務局 < rikougakubu-alumni@sophiakai.gr.jp

NHK放送技術研究所 見学会報告

 理工学部同窓会は、9月24日、世田谷区砧のNHK放送技術研究所の見学会を理事、企画・広報委員の有志10名で「次世代メディア検討会」として実施しました。
 同窓会事業企画委員会が提案し、前NHK技研所長の藤澤秀一氏(1979年電気電子卒)の協力を得て実現しました。

 

9 pho-1.jpg

 NHK放送技術研究所は、わが国でラジオ放送が始まった5年後の1930年に設立され、放送技術全般にわたる日本で唯一の研究所として、放送の進歩発展に関わる調査・研究を基礎から応用まで一貫して取り組んでいます。研究員は約250名、上智大学理工学部の卒業生も在籍しています。

 見学の最初は、藤澤秀一氏・ 金子浩之氏(電気電子卒)の案内で8Kスーパーハイビジョンシアターです。映画館の様な大スクリーンにロンドンオリンピックの映像や長岡の花火大会の映像が映し出されました。現行のハイビジョンの16倍にあたる3300万画素の超高精細映像と22.2マルチチャンネルの三次元音響の迫力は想像を超えるもので、初めて体験する臨場感に圧倒されました。2016年の試験放送、2020年オリンピックイヤーの8K放送を目指しているとのことです。

 次は、昨年9月から運用開始されたハイブリッドキャストの説明を受けました。放送とインターネットを融合したサービスで、HTMLの使用により高画質画像やアニメーションなどを放送と同じ品質で大量の情報を表示することを可能にしたものです。今後はスマートフォンやタブレットのアプリを利用し、さらに高度な放送連動型のサービス開発が進められています。

 

9 pho-2.jpg

 さらに立体テレビの開発状況も、片山美和氏(電気電子卒)に説明していただきました。いわゆる3Dではなく、めがねなしで複数のカメラ映像を用いる多視点画像からインテグラル立体像を生成する手法です。微小レンズ群からなるレンズアレーを撮影・表示の双方に用いて立体像を再現する立体映像システムです。さらなる映像の高精度化やデータ処理速度の向上などで実用化が近づいてくるという印象でした。

 最後に、テレビの上に設置したセンサカメラを利用して、視聴者の表情から番組への反応を類推するシステムも見ることができました。山内結子氏(電気電子卒)より研究内容の説明をしていただきました。番組のどの場面に笑いや驚きなどの表情の変化が出たかを分析するもので、将来は視聴者の嗜好にあった番組を自動的に選定できるかもしれません。

 全体で2時間弱の見学会でしたが、テレビの可能性を広げる様々な試みは興味深く、もう少し時間が欲しかった印象でした。
 なお、藤澤秀一氏には11月1日の同窓会全員大会において講演をしていただく予定です。
 また、斯様な企画(OB・OGの関係する企業・研究機関などの視察・見学会)を、学生会員まで含めた対象へ広げ、来期事業計画の柱にしていくそうです。

写真など

  • tsukuru 7.jpg
  • tsukuru 6.jpg
  • tsukuru 5.jpg
  • tsukuru 4.jpg
  • tsukuru 3.jpg
  • tsukuru 2.jpg
  • tsukuru 1.jpg