2015年1月アーカイブ

1月15日は株式会社OKLife代表取締役の浅見公香氏(電気電子1987)が、講義を行いました。浅見氏は、ご自身の経験をもとにいくつかのエピソードを交えながら、職業選択やキャリア形成の考え方について説明しました。以下では、講義の内容をご紹介します。

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人生はベンチャー経営
 
 私は1987年に理工学部電気電子工学科を卒業しました。娘は皆さんと同じ大学生です。大学時代に米国のIBMでインターンをして、その後10年間ほど米国・ヨーロッパ・アジア地域でエンジニアとして働いたのちにソニー入社で帰国し、その後起業しました。現在はOKLifeという会社を経営しています。この会社では、OKMusicという日本最大の音楽ソーシャルサイトを運営している他、ヤフーやグーグルといったサイトに芸能ニュースを配信する事業も行っています。アマゾンには音楽関連商品の説明欄に掲載される紹介文を提供しています。そのほかに、フリーペーパーの発行や街頭ビジョンや自社イベントスペースを活用した事業も展開しています。

今、なぜこのようなエンタテインメント系企業を経営しているかというと、その経緯はわりと偶然だったりします。終身雇用が崩壊している現在、人生そのものがベンチャー企業のようなものになっています。皆さんは自分の人生という会社を経営していく、経営者と言えるかもしれません。離婚率も高くなっています。そういう意味では人生の共同経営者の選択も重要です。会社は市場が無いとビジネスができませんし、求められる人材スキルは急激に変化しています。人生という会社を経営していくためには、市場を見極め常に自分を変化させていく必要があります。これから皆さんを待ち受ける不確実な未来について不安を感じるかもしれませんが、やったことのないことについて自信があるのはある意味おかしな事で、皆さんが不安を覚えることは当然のことです。これから就職して、キャリアを積んでいくことに関して、不安を抱えていて当然です。でも、どうぞ安心して進んでください。
 

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山登り型と波乗り型

最初に自分の特性を見極めることが大切です。あなたは、楽なことや、得意なことを仕事に選ぶ、プライベート充実型のタイプでしょうか。それとも、楽しいことや、やりたいことを仕事に選ぶ、仕事型人間でしょうか。ベンチャー企業の社長はこのタイプが多いです。私は子供ができて自立するまでは、どちらかというとプライベート充実型の人生でした。どちらのタイプでもよいと思います。どちらのタイプにもメリット・デメリットがあります。重要なことは自分がどちらのタイプか把握することです。

また、生き方には、山登り型タイプと、波乗り型タイプの2種類があります。長期目標がなんとなくあり、ある程度計画的にそこに向かっていこうと考えるタイプが、山登り型(登山家)タイプです。一方、その時々に気になったことに飛びついていくような、直感で行動して人生を切り開いていくタイプが波乗り型(サーファー)タイプです。

たとえば、幼い頃から天才ピアニストとして生涯を過ごすようなかたは、この山登り型タイプですね。ただ、若いころから明確に上りたい山が見つけられる人はまれです。20歳くらいでは、なかなか上りたい山がわからないのが現実ではないでしょうか。波乗り型タイプはビッグウェーブが来るまで、ぼーっとしているタイプです。私はどちらかというこちらのタイプでした。うまく波に乗れたこともあれば、難破して溺れそうになることもあります。

どのようなタイプであったにせよ、自分のタイプを把握して人生という会社を経営していった方がよいと思います。私は波乗り型であったにもかかわらず、山登り型で20年近くを過ごしたため苦労もしましたし、失敗したとも思っています。人生の早いタイミングで、自分がどちらのタイプなのかを把握することが重要だと思います。
 

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二つのタイプのメリット/デメリット

山登り型、波乗り型ともに、メリット・デメリットがあります。山登り型のメリットは、会社の評価や大人の理解を得やすいという点にあります。こういうことをやりたいと言い続けていると、周りの人たちが協力してくれます。それには3年から5年はかかます。最終的に大きなことを成し遂げたり、経営者として成功したり、研究者として成功したりする方は、山登り型の方が多いです。

山登り型のデメリットは、違う山に登ってしまうことがあることです。能力のある人は、どんな分野でもそこそこ仕事をこなして行けます。私はたまたまソニーで、経営者育成コースのようなコースに乗ってしまいました。ソニーでこのコースに乗れるのは上位2%程度なので、上司からは期待されるし、家族からも期待され、ある種アドレナリンが出ているような状態になって一生懸命仕事に取り組んでしまいました。けれども、役員のカバン持ちをやったり、経営計画を作成したりする仕事をしているうちに、本当にこれが私のやりたい仕事だったのだろうかと疑問を感じ始めてしまいました。ある日、もうこれ以上耐えられない、これ以上この仕事を続けていたら私の魂は腐ってしまうと考え、自分でサービスをつくりたいという思いで会社を辞めました。今、考えると、なんだかゲームに嵌っていたようにも思えます。無駄な時間を過ごしてしまったかもしれません。違う山に登ってしまったと感じたときは、降りる勇気が必要だと思います。

波乗り型タイプの人は大人の理解が得にくいというデメリットがあります。メリットは、毎日が文化祭状態で楽しく仕事ができることです。おそらくは、社会的には認知されない仕事であるかもしれないけれど、自分にとっては誇らしい仕事ができていると感じることができます。また、波待ちの時には浮いているだけで楽ができます。が、ひとたび大きな波が来たら、死ぬほど働いてチャンスをものにする必要があります。女性は妊娠・出産という期間があるので、山登りは大変だという現実もあります。波乗りであれば、その期間は波を見逃すことができます。一般的なキャリアカウンセリングは山登り型の指導しかしないので注意が必要です。一方で、たかだか22歳で極めたい山が判明している人はおそらく少数だろうと思います。

一番ワクワクすることは何ですか

私は前にも言ったように、どちらかというと波乗り型タイプでした。学生時代、インターネットやプログラミンが面白いと考え、たまたま指導教官が米国人のディータース教授だったため、推薦状を書いていただき、米国IBMでインターンをしてそのままアメリカでデジタルイメージングでは最先端だったコダックの研究所に入ってしまいました。英語の勉強もせずに行ったので最初は苦労しましたが、プログラミングの能力が高ければ尊敬される世界だったので何とかなりました。山登り型タイプだったら、あらかじめ英語の勉強をしておいただろうと思います。教訓は、波乗り型でもビッグウェーブが来る日に備え、基礎体力は養っておく必要があるということです。例えば英語力は重要な基礎体力のひとつです。身に着けておいたほうがよい基礎体力です。

山登り型、波乗り型に共通して押さえておきたいポイントは、苦手なこと、嫌なことを自分で把握しておくことだと思います。人間には不得意でも好きなことや、嫌いだけれど上手にできることがあったりします。いやなことや嫌いなことを続けていると魂が腐っていきます。重要なことは、自分が好きなこと、自分がワクワクできることを把握することだと思います。また、自然と人並み以上にこなせる得意なことも、把握しておくべきだと思います。そしてその内容を時々見つめなおして、たな卸しをする必要もあります。

私は出産と子育てを経験しなければ、もっと早く若いときにベンチャーを創業していたかもしれません。ただ、その当時、私にとって一番ワクワクすることは子育てであり母親であることでした。同じような年齢の人たちがベンチャーを創業して、成功していく様子を見ていました。だけれど、後悔はありません。自分の魂の納得感が重要だと思います。

少し脱線しますが、苦手を克服するより、得意を伸ばす方が、世の役に立つ上に、自身も出世できると思います。ソニーで様々なレベルのマネージャーをしている時に感じたことですが、基本的に部下の評価はプラス評価で足し算です。部下の良い所を見つけて評価していきます。だめな部分があっても減点要因にはなりません。一方で学校の教育というのは、苦手なものを人並みにしていくことが重視される世界です。会社は違います。国語の成績が悪くても数学や理科が抜群にできればそれでいいという世界です。このことは覚えておいたほうがよいかもしれません。
 

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大企業orベンチャー企業?

皆さんはキャリアをスタートするにあたり、大企業へ就職しようと思いますか、それともベンチャー企業に入りたいですか。確かに、どちらに入るかで人生は変わってきます。でも、大企業せよ、ベンチャーにせよ、山登り型でも波乗り型のタイプにかかわらず、どちらもそれなりに利用価値があります。2〜3年はどこで頑張ってもいいと思います。例えば、山登り型タイプの人が大企業に入れば、それなりの大きな山の中腹までは連れて行ってもらえるというメリットがあります。人脈や経験を組織的につけてもらえます。デメリットは大きな組織の歯車になるので全体の仕事はなかなかできないということです。

一方、ベンチャー企業に入れば、低い山だけれども頂上までの登山体験ができます。波乗り型の人はいろいろな波がやってくるベンチャー企業のほうが向いていると思いますが、大企業に入れば、電話の取り方やビジネスメール対応、財務諸表の読み方など基礎体力づくりができます。また、波が来るまではそこそこ働いていれば、クビにならずに食べさせてもらえます。波が来たらそれをとらえて頑張って仕事をすれば、とんとん拍子で出世できる可能性があります。ベンチャーに就職するといろいろな波が次から次へとやってくるので楽しいですし、パフォーマンスを上げれば給料も上がります。ただ、仕事で私生活は犠牲になる場合もあります。毎週キッチリデートしたいとかいうパートナーがいる人には向いていないと思います。

パートナーの話しが出たのでついでにお話ししますが、恋愛ではいくら好きでも結婚できないこと、縁が無いということも人生には起きます。ただし、人生のパートナーとしてではなく、友人として付き合いを保っておくとよいこともあります。Twitterはブロックしてもfacebookくらいでつながっておいて、関係をゆるく保っておくとよいと思います。私が起業した際にも、元カレで会計士になっている人や、弁護士になっている人が助けてくれた経験があります。異性の友人がしてくれるアドバイスは、同性の友人とは違った目線でとても役に立つ事が多いと感じています。 一時期でも魂が近づいた人は、親身になって相談に乗ってくれ、皆さんの事を良く理解したならではの、有益なアドバイスをしてくれます。
 

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二つのタイプを併せ持つ人生

山登り型と波乗り型の二つのタイプの話しをしてきました。しかし、実際の人生は複雑です。二つのタイプが混ざり合って進んでいくと思います。たとえば、恋愛や結婚については山登り型だけれども、仕事は波乗り型という人もいるだろうし、逆の人もいると思います。20代の時は登りたい山がまだ見つからないので波乗り型で基礎体力をつけ、30代になってから登る山を定めて山登り型に変わる人もいると思います。失敗したりうまくいかないこともあると思いますが、心折れることなく、転んでもまた立ち上がって、とぼとぼとでも歩き出すことが重要だと思います。人生のフェーズにおいてはタイプを選べない局面もあります。二つのタイプを切り替えて対応する必要があります。例えば、子育てはほぼ強制的に山登りになるし、病気になったり事故にあってしまった場合には、悪い波に乗ってしまったとあきらめて、何とか乗りこえるしかありません。

子育てについては、チャンスがあればぜひチャレンジしてほしいと考えています。人生にはままならないことが3つあるといいます。一つは親になること、二つ目は部下を持つこと、3つ目は会社を経営することだそうです。この三つをやると、人間として大きく成長するということだと思います。そういわれてみれば、子供を育てて初めて、上司として部下の足りない部分を許して、包み込んで成長を支援するというようなことが、理解できた気がします。会社をやったことで経済の仕組みを知り、儲けることと社会に貢献することの両面を知ることができました。もし、大変そうだから子供を持たないという選択をしようとしている人がいたら、大変だけれど自分を成長させることになるので、挑戦してほしいと言いたいです。

そして、重要なことはどんな状況になってもあわてず、自分の状況を把握しておくことだと思います。嵐の航海の中でも、自分という船の舵を握っているという自覚を失わないこと、そういう自分が幸せだと感じられることが重要です。大きな嵐にも果敢に挑戦してほしいと思います。大きな嵐を乗り越えると、それより小さな嵐は平気になります。私は妊娠時に子宮筋腫が大きくなっていることが発覚して手術することとなった経験があります。おなかに子供がいるので麻酔は限定的にしか使えず大変痛い思いをしました。出産時の痛さについてママ友からとても痛いと聞かされていましたが、この経験があったので少しも痛く感じませんでした。これ以降、多少の痛みは平気になりました。変な例えですが、大きな嵐を乗り越えると、それより小さな嵐は平気になります。

人生には無駄はありません。私はソニーで違う山に登ってしまいましたが、違う山に登ってしまった経験があれば次はうまく登れます。大企業でいろいろな仕事をしていたため、顧客が大企業になった時に、大企業の論理が理解できるようになりました。経験は基礎体力として効いてきます。前にも話しましたが、私はITバブルの時に子育てで、波に乗り損ねましたがそのことを後悔していません。乗れなかったのではなくて、乗らなかったのだと考えています。波に乗り損ねたことも、次のもっと良い波に乗れるチャンスと考えたほうが良いと思います。
 

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最後にもうひとつ大切なこと

もうひとつ大切なことがあります。それは、心と体が壊れないようにケアすることです。私の友人で大変優秀な人がいました。京都大学の医学部に受かったにも関わらず、途中で自分にはあわないと考え東大の工学部に入りなおしましたが、東大で法学部の授業に出たら面白いと感じてしまい、最終的には法学部を出て弁護士となりました。とても有能な弁護士で、銀座に個人事務所を構え、多くの企業を担当していましたが、ある日、癌に侵されていることが発覚して余命1ヶ月と宣告されてしまいました。彼はその後の1ヶ月間、後任の弁護士と担当企業を回って引継ぎをし、きっちり1ヵ月後に若くしてこの世を去りました。きっとやりたいこともたくさんあっただろうと思います。

別の友人で、詳細は控えますがとても優秀な男性がいました。大学での成績はトップクラスで、ソニーに就職し。私がソニーに中途入社した際に、十数年ぶりに再会しました。その後、彼と一緒にノートPC事業の立ち上げプロジェクトをやることとなりました。当時、NECは2800人のノートPC開発部隊がいたといわれていますが、それに対してソニーはわずか200人の開発部隊で、しかも半年という期限が限られた中で開発を進めなければなりませんでした。そんな激務の中で彼は心を病んでしまい、3年間休職して会社の規定により、結局退社することとなってしまいました。この時、彼は組織上は私の部下となっていたために大変つらい思いをしました。このことが、自分で会社をやりたいと思うきっかけにもなりました。くれぐれも、心と体が壊れないようにして欲しいと思います。

今日は、先輩の失敗から学んでいただければということで、私の経験をもとにキャリア形成についてお話しをしてまいりました。上智大学に合格した皆さんは、地頭が良く大抵の事なら器用にこなしてしまうでしょう。私がやった「成功しすぎて失敗」をしないよう、舵をとって生きて欲しいと心から願っています。 私の失敗経験が何らかの形で、皆さんの役に立てればうれしいです。


 

写真など

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