「つくるI(キャリア形成I)」(10月16日)報告 ~乳製品製造技術の特徴と進歩~

 10月16日は、森永乳業株式会社執行役員食品総合研究所所長の大川禎一郎氏(化学科1980年卒業)が、「乳製品製造技術の特徴と進歩」というテーマで講義を行いました。前回の講義同様、教室は満席となり、学生たちは熱心に大川氏の話に聞き入っていました。講義は、牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム、育児用ミルクの4製品に関する製造技術の解説が、主な内容となりました。

 大川氏は自己紹介を行った後、2017年に創業100周年を迎える森永乳業の事業概要と、自身が所長を務める同社の食品総合研究所について説明しました。あわせて、日本の食品産業について、市場規模や食糧自給率、人口動態のグラフを用いながら、成熟化する国内食品市場と海外にシフトする業界動向について解説しました。特に乳業に関しては、国内の飲用牛乳以外の乳製品の需要が高まっていることから、乳製品の世界的な需要が拡大する中、長期的には需給は逼迫傾向にあると述べました。一方で、飼料価格の高騰などにより酪農家・乳牛頭数・生乳生産量ともに減少している現状を説明しました。食品産業における研究開発の課題とし、企業内における部門間の壁を打破することや、経済性と安全性の追求という社会的要請に対応することを指摘しました。また、森永乳業では年間数多くの製品を開発しているが、最終的にヒット製品と言えるものは一つか二つあればいいほうであると説明しました。

 

 ここから本題の「乳製品製造技術の特徴と進歩」についての講義に入りました。
 最初に取り上げたのは牛乳。導入として「牛乳を飲むと太るのか?」「牛乳はどれも同じ味か?」という一般的な興味から話を始め、牛乳の組成、殺菌技術の変遷、生産量、法令などについて解説しました。製造工程に関しては、受乳、浄化、予備加温、均質化、殺菌、冷却、貯乳、充填、箱詰め・冷却の各工程を順に説明しました。製造工程における殺菌温度や殺菌方法などが、牛乳の風味に影響を与える要因であると解説した上で、消費者に対して「おいしさ」をアピールするためには、イメージやパッケージデザインも重要であると付け加えました。

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 続いて、取り上げたのはヨーグルトの製造技術について。
 日本のヨーグルト生産量が増加傾向にあることをグラフで示しつつ、オランダ、フランス、デンマーク、ドイツなどの大消費国に比べると日本の消費量はまだ少なく、米国人はあまりヨーグルトを食べないことなどを紹介しました。ヨーグルトには、殺菌した調乳液にスターターを接種し容器に充填して発酵させる「後発酵ヨーグルト」と、タンクで発酵させ容器に充填した「前発酵ヨーグルト」の2種類があると紹介し、製造工程が2種類のヨーグルトで異なることを説明しました。その後、均質化、殺菌・冷却、スターター接種、充填(後発酵)、発酵・冷却(後発酵)、発酵(前発酵)、冷却(前発酵)、カード破砕(前発酵)、フルーツプレザーブ混合(前発酵)、充填(前発酵)の各工程を順に説明しました。また、乳酸菌について説明し、ビフィズス菌は狭義には乳酸菌ではない(広義では乳酸菌の一種)と述べた上で、ビフィズス菌には人の腸内環境の改善など様々な生理効果があり、アレルギー抑制作用など様々な研究が行われていることを紹介しました。ヒトの腸内環境においては加齢とともにビフィズス菌が減少するので、食品から摂取することが求められていたが、ビフィズス菌は酸や酸素に弱いという特性を持っており食品への応用が困難だったと説明、森永が発見したヒト由来のビフィズス菌BB536は、酸や酸素に強く、ヨーグルトに利用することが可能になったと、自社の研究成果を紹介しました。

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 アイスクリームについての講義では、歴史や製造工程を紹介した後、アイスクリームの食感や風味に影響を与える空気の混入割合である「オーバーラン」の計算方法について説明しました。オーバーランが高い(空気含有量が多い)とクリーミー感が強くふわっとした食感となり、低いと口溶けが良くすっきりした風味となると解説しました。

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 育児用ミルクの説明では、まず母乳の不思議について説明しました。母乳は1回の授乳の中で、飲み始めは脂肪含量が少なめで飲みやすく、飲み終わりの頃には脂肪含量が増えて濃厚になるという特徴を説明、これは赤ちゃんが満腹感を覚え、飲み過ぎを防ぐ自然の摂理なのではないかと解説しました。赤ちゃんにとっては健康なお母さんの母乳が最良であり、育児用ミルクは止むを得ない理由で、母乳が与えられない場合に、安心して赤ちゃんに与えられるものが必要ということで提供されているものであり、そのため厳格な品質管理下で製造されていると説明しました。森永における育児用ミルクの歴史と種類を解説する中では、先天性代謝異常症用の特殊ミルクについても説明を行いました。製造工程については一連の流れを解説しました。育児用ミルクの説明の中では、女性の痩身志向の高まりなどにより、出産適齢期の女性のBMIが急激に減少している状況を説明。至適体重者の割合が減少し、妊娠期のトラブルや分娩異常のリスクが増大していると指摘しました。約10人に一人の割合で低出生体重児が生まれているというデータを示しながら、妊娠期の低栄養は出生児の将来の生活習慣病リスクを高める可能性が報告されており、妊娠期間中の栄養管理の重要性が再認識されていると訴えました。

 講義の最後に大川氏は大学・大学院教育に期待するものとして、グローバル化対応人材の育成を挙げ、語学力、専門性、メンタリティー、体力が重要と締めくくりました。質疑も活発に行われ、非理工系の学生からも多くの発言がありました。大川氏から出されたレポートのテーマは、「食品産業の今後のあり方」と「牛乳に対する要望」。学生たちから、多様で斬新なアイデアや意見が寄せられることを期待したいとのことです。

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