「つくるI(キャリア形成I)」(11月13日)報告 ~精密印刷技術の細胞工学への展開~

 11月13日は、大日本印刷株式会社の高橋洋一氏 (化学科1979年卒業)が「精密印刷技術の細胞工学への展開」というテーマで講義を行いました。
 今回も、教室は満席になりました。
 高橋氏は、印刷会社である大日本印刷がさまざまな事業に多角展開してきた歴史と、さらにライフサイエンス分野への関わりについて講義されました。

 以下に講義の概要を紹介します。

 

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教室全景


未来のあたりまえを作る。
 まず大日本印刷の標語である「未来のあたりまえを作る。」という言葉から説明されました。今はないけれど将来はあたりまえになっている技術や製品を開発するという意味です。
 例えば昔はレコードだったものがコンパクトディスク(CD)に変わり現在はネット配信が音楽では主流となっているように、技術の進歩により大きな変化が起こっています。医療の分野でも、医薬品による対症療法から細胞を用いた再生医療の様な根治治療へと進んでいくと予測されます。その未来に向けて細胞工学の技術開発が進められています。
 そして現在の大日本印刷の三つの事業分野の説明に続きます。情報コミュニケーション(印刷やICカードなど)、生活・産業(包装や住宅材や自動車の内装材など)、エレクトロニクス(フォトマスク・液晶ディスプレイ用のカラーフィルターなど)です。
 紙への印刷から、布やフィルムや鋼板への印刷に応用されたり、金属エッチング技術の応用がエレクトロニクスへ展開されています。 

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共通する技術コンセプト
 細胞工学の具体例の説明の前に、なぜこの分野をやっているかを解説されました。
 印刷は紙の上にインクパターンをのせることであり、紙を他の材料に変えれば建築材などになります。ガラスやセラミックスの上に精密パターンをのせることでエレクトロニクスに応用され、それと同じように生体組織の上に血管などのパターンをのせることで細胞工学へ展開できるのです。
 このように全く異なる分野に見える技術も、そのコンセプトは共通しているのです。

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パターン培養による毛細血管作成
 体外で毛細血管を作る技術です。まず血液を採取しその中の毛細血管を作ることができるヒト血管内皮細胞を抽出します。一方で表面加工技術を用いたパターン基板を作成し、その上に内皮細胞をのせるとその形状に沿って細胞が培養されます。そしてその細胞を生体材料であるヒトの羊膜に「転写」すれば、分化が起こりチューブ状の毛細血管が作られていくのです。この「転写」という技術は印刷技術の応用です。印刷ではインクを紙に転写しています。インクを細胞に紙を羊膜に置き換えた技術です。
 この細胞転写技術の応用で骨芽細胞再生も研究が進んでいます。骨を再生したり、おやしらずから歯の細胞を抽出し培養して歯周病の治療などに期待されています。

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再生医療向け細胞シート
 実用化が進んでいる技術として、温度変化で接着性が変化する細胞培養用高分子材料も紹介されました。シャーレの上に高分子材料を付けます。その細胞培養材料は、温度により周りの水を吸収して伸びたり縮んだりする性質があります。培養温度37℃では細胞は増殖を始め、増殖が終わったところで温度を20℃に下げれば高分子材料が水を吸収して細胞は縮み剥がれていきます。
 このようにして角膜上皮シート、食道への口腔粘膜シート、心筋シートなどが作られ移植に利用されようとしています。


家畜受精卵体外育成用マイクロバイオリアクターシステム
 黒毛和牛の受胎率は低く、これを高くして生産効率を上げることが課題となっています。黒毛和牛の受精卵を体外に取り出し、子宮環境に近い装置の中で培養します。その受精卵の卵割の状態を自動計測して状態の良い受精卵を牛の体内に戻すことで受胎率を上げようという試みです。
 従来のシャーレでの培養では受精卵が動いてしまうため、最適の受精卵の識別が難しいとの問題がありました。流路の形状により受精卵の位置を変えずに培養できるマイクロバイオリアクターと、卵割の状態をリアルタイムで画像解析し最適な受精卵を選ぶソフトウェアの開発により大幅に、受胎率を高めることが可能になりました。
 受精卵培養ディッシュは人間の不妊治療クリニック用にも商品化されています。

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 講義の最後は、

 大日本印刷は今後も新規分野に挑戦し続ける
「未来のあたりまえを作る。」ために

という言葉で締めくくられました。
 

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五味コーディネーターと高橋講師

写真など

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