2018年度上智大学理工学部同窓会会員大会報告

 2018年11月10日(土)に理工学部同窓会会員大会および講演会・懇親会が下記添付の要領で開催されましたので各内容を以下に報告致します。
 諸般の事情で掲載が遅れましたことご容赦ください。
  ⇒  2018年度 上智大学理工学部同窓会会員大会開催要領.pdf

 

【講演会】 講演1 「理工学部の目指すもの」
          講師:陸川 政弘 上智大学理工学部長(化学1983年卒)

 理工学部長の陸川政弘教授(物質生命理工学科教授)から理工学部の目指す姿についてご講演いただきました。

 理工学部の創設は1962年4月1日ですが、創設時の理工学部の教育理念について振り返りました。下記の5つです。
 1. 上智大学の建学精神に基づく人間形成の尊重と一般教養の重視
 2. 理学と工学の融合
 3. 基礎に重点を置く専門教育
 4. 語学力と国際的視野の養成
 5. 教員と学生の人格的触れ合いの尊重
 この中で1、3、5はずっとやり続けていることです。一方で2、4はまだ不十分だと思っていることです。どれを取っても今でも通じる教育理念になっています。

 学科等開設のあゆみは以下のようになっています。
 1962年:機械工学科、電気・電子工学科、物理学科、化学科
 1965年:数学科
 1970年:一般科学研究室
 1977年:生命科学研究室

 上智は「小さな総合大学」ならではの多様性があります。通常、私立の総合大学の場合、理工学部は別のキャンパスにあるケースが多いのですが、上智は四谷キャンパスに理工学部を含む9学部が集結しています。これにより文理融合型のカリキュラムを組むことができ、理工学部の売りになっています。

 今後の理工学部の姿ですが、まず一つ目は「国際化戦略」です。英語を身につけながら、研究に没頭し、社会で通用する経験と教養を身につけます。
 例えば、理工学部・研究科英語コースとして以下のコースを開設しています。
 ・2012年9月:物質生命理工学科 グリーンサイエンスコース
         機能創造理工学科 グリーンエンジニアリングコース
 ・2013年9月:大学院英語コース グリーンサイエンス・エンジニアリングコース
 英語コースは英語ですべての授業科目および研究指導を行い学位を授与するコースです。部から英語コースがある学校は珍しいです。

 続いて二つ目は「複合知」です。学科の壁を越えた基礎教育の充実と複合知の理工融合教育を行うため、2008年4月に理工学部の再編をおこない、5学科1研究所体制を3学科にしました。現在は
 ・物質生命理工学科
 ・情報理工学科
 ・機能創造理工学科
の3つの学科となっています。

 三つ目は「改修工事」です。3、4、8、9号館について、理工学部開設以来の大規模な改修工事を行っています。のべ床面積は約1.5倍になり、学生のスペースが増大されます。

 そして四つ目は「上智大学理工学部研究拠点計画」です。環境、エネルギー、社会生活の問題に立脚して洗練された科学技術に関する研究に取り組んでいます。これらの研究を促進するために以下の3つの研究拠点を開設します。
 拠点1:Sophisticated Materials(2019年度開設予定)
 拠点2:Sophisticated Engineering(2020年度関節予定)
 拠点3:Sophisticated Communications(2021年度関節予定)

 最後に新たな挑戦をまとめておきます。
 ・教員のスリム化と研究環境の充実。
 ・英語コースと日本語コースの垣根をなくし、一本化する。
 ・理系と文系の区分けは入試文化の負の遺産。真の文理融合を行う。

陸川理工学部長講演.JPG

 

【講演会】 講演2 「21世紀のメディア企業は、テクノロジーカンパニーを目指す。
          ~日本経済新聞社のデジタル事業に携わって」
          講師 戸井 精一郎 ㈱日本経済新聞社、シニアプロデューサー
            (電電1984年卒)

 続いて日本経済新聞社の戸井精一郎様から上記のタイトルで日本経済新聞社が目指しているテクノロジーカンパニーの姿についてご講演いただきました。

 まずはじめに理系の時代が到来している、というお話から始まりました。日本経済新聞社の調査では今年度の理工系大卒内定者が昨年度比で6%増え、7年ぶりに文科系を上回ったそうです。また日立製作所の東原敏昭社長によると、将来的に従来型の「製造業」はなくなり、日本が得意だった品質管理はAIに取って代わられます。そして電子商取引や電子決済の普及により、購買にまつわるデータにメーカーとサービス事業者が集中しメーカーとそれ以外の垣根が崩れます。こうして「デジタルトランスフォーメーション」が起こることが予想されています。

 新聞業界もデジタル化の波に襲われています。メディアの接触時間は以下のように変化しました。
          2006年   → 2018年
     新聞: 32.3分 → 15.9分
   パソコン: 56.6分 → 66.6分
 携帯・スマホ: 11.0分 → 103.1分

 戸井様は日経マグロウヒル社(現日経BP社)に1984年に入社しました。ちょうどパーソナルコンピューティングの時代が到来した時です。1984年は10月に「日経バイト」が創刊した年でもあります。
 マグロウヒルのビジネスモデルは、
 ・スタッフライターによる編集体制
 ・予約購読自宅直送方式の販売
 ・データを活用した広告セールス
となっており、非常に独自なモデルです。
 1969年の日経マグロウヒル社(現日経BP社)の設立をきっかけに、日経は単なる新聞社から「新聞も出している会社」に変貌してきました。例えば、日経は作成した記事を印刷して終わりにはせずに、データとして蓄積し、後から販売するというモデルを構築しました。

 ここでヤフーと日経BPを比較してみましょう。ヤフーは自社ではコンテンツは制作せずに他社が作ったコンテンツを集めて紹介しています。一方、日経BPのコンテンツはスタッフライターが取材して執筆しています。ヤフーはユーザー登録なく利用できますが、日経BPは利用は無料ですが登録制です。広告販売について、ヤフーは大きなページビューを稼ぎ安価な値段で販売します。一方、日経BPは限られた在庫を読者属性が見える形で高単価で販売しています。

 ヤフーは「ページビュー」で売っているのに対し、日経BPは「ページバリュー」で販売しています。ページバリューとはページの価値を規模だけなく、オーディエンス属性、コンテンツの質、媒体への信頼度を加味して評価すべきというコンセプトです。

 ここでネット広告の仕組みをご紹介します。現在のネット広告は自動取引が全体の8割に達しており、自動取引の市場規模は2018年には1兆円を超える見通しです。広告市場が拡大する一方で、DeNAがまとめサイトで不正確な内容や著作権侵害の疑いのあるコンテンツを量産してページビューを稼ぎ広告で儲けようとした問題が発生しました。ページビュー市場主義の弊害です。

 世代別にニュースの取得状況を見ると、どの世代も1位はテレビ(ニュース番組)ですが、10代、20代ではその次にSNSが来ます。新聞社はSNSとの共存、そして自己改革が必要です。

 日経新聞は現在60万人の有料会員がいます。購読料は4200円と、紙の新聞と同じくらいの値付けです。有料化は上手くいかないと言われましたが、世界のサブスクリプションランキングでは5位に入っています。買収したFinancial Timesを加えると3位になります。

 無料会員も含めた電子版会員は約400万人(2018年4月)います。開始当初(2010年5月)は約35万人でした。まだまだ伸びると予想されます。日経電子版の特徴は1日約1,000本という豊富な記事が閲覧できること、そしてマルチデバイス対応していますのでいつでもどこでも記事が見られることです。広告収入のみだとコンテンツの質が下がりますが、日経は有料化することによってコンテンツの質を上げる努力をしてきました。

 有料化の際に全販売店との契約を見直して、予約購読直販方式に変更しました。これは会社の大きな方針でしたが、上手く進めることができました。現在、日経ID会員は800万人です。これは日経新聞と日経BPのオンラインサービス登録者を合算した数です。ビジネスパーソンのオーディエンス・プラットフォームとしては日本最大です。30~50代の男性、役職者が多くいます。

 日経電子版のビジネスモデルは、データを活用した広告セールスです。顧客の登録情報やアクセス履歴などから、広告の目的に合った顧客を抽出し、ターゲティングして広告を配信します。ブランディング型の広告が中心で、通常の広告の10~30倍の単価を得ることができます。マスコミは顧客を持たなかったのですが、日経は大きな顧客基盤を持っていることが特徴です。

 未来はデジタルの中にあります。日経はデジタルファースト編集体制を敷いています。現在、第一報はウェブで18:30に出しています。そのニュースが翌日の朝刊に載るという順序です。これはイブニングスクープと呼んでおり、NHKの夜7時のニュースと競争しています。またエンジニアを多く採用しているのも特徴です。

 2015年にFinancial TImes(FT)を買収しました。FTの方が、エンジニアやデータサイエンティストが多いです。FTもオーディエンスのエンゲージメントを高めることを重視しています。これは購読数を最重要指標にしないことを意味しています。

 最近、AIを活用して記事の自動作成をしています。これは決算の要点を自動で配信する「決算サマリー」というサービスです。

 日経は、ロイター・ジャーナリズム研究所の調査報告書で日本で最も信頼度の高い新聞に選ばれました。今後はテクノロジーメディアカンパニーを目指して進化していきます。

戸井氏講演.JPG

 

【会員大会】
 引き続き同じ会場で会員大会が行われました。理工学部同窓会の池尾茂会長(機械1996年卒)から1年間の活動報告がありました。

 まずは同窓会の事業とはどういうものかをあらためてお話いただきました。

 会則に従って同窓会の目的を達成するために次の事業をおこなう。
 1) 会員相互の交流会・研究会の開催。
 2) 講演会、シンポジューム、産学連携の公開講座などの開催。
 3) 上智大学理工学部に対する支援(奨学金・研究支援等)
 4) 上智大学理工学振興会との連携
 5) ホームページの運用・管理
 6) メールニュースの発行
 7) その他目的達成のために必要な事業具体例を紹介

 まず一つ目は交流会・研究会のご紹介です。
 ・医療情報システム研究会
 ・ビックデータの活用とデータサイエンス研究会
 ・AI&IoT研究会
 ・企業経営者の会
 ・つくるネットワーク

 二つ目に2018年4月12日に行われた第5回懇親ゴルフ会「ソフィア理工カップ」についてご紹介いただきました。

 三つ目に2018年5月27日のオールソフィアンズフェスティバルで行われた「理系ソフィアンのつどい」についてご紹介ただきました。ポスター発表や講演会、懇親会、クラス会などが開催されました。

 四つ目に「つくるⅠ」についてです。今年の「つくるⅠ」は全12回にわたって卒業生を講師に招き行われました。様々な会社でスキルを磨いてきた卒業生達が現役の学生に対して講演を行うという形の授業です。

 五つ目は「つくるⅡ」です。「つくるⅡ」はプロジェクトベースドラーニング(PBL)型の講座として始まったものです。ノバルティスファーマ様とキッツ様という二つの会社が進める形で展開していきます。

 六つ目は奨学金です。ことしもカリフォルニア大学デービス校に英語研修プログラムに行く学生に対して理工学部同窓会から奨学金を出しています。

 七つ目は「SOPHIA SUMMER HACKATHON 2018」です。これは夏休みの4日間を使って仲間たちを課題を考えてデモを開発し最後にみんなの前で発表するというイベントです。

 八つ目は理工学部同窓会主催の「技術系OBOG交流会」です。2月17日に行われました。

 九つ目は「理工学部同窓会奨学金基金」です。理工学部の同窓生の石賀様のご遺族からいただいた寄付を中心に基金として運用し毎年運用益を奨学金として使用していくというお話がご紹介されました。

 10番目は上智大学初の大学発ベンチャー企業設立のご紹介です。これは「ソフィアメディカルインフォ株式会社」という企業で、医療情報システム研究会からスタートしたプロジェクトが企業化されたものです。「上智大学多言語対応医療・看護・福祉・介護情報提供システム=SoCHAS(ソーカス)Sophia Cross-lingual Health Assistant」の開発、普及を目指しています。

 最後に内田寛財務委員長(化学1995年卒)のから2017年10月~2018年9月の決算報告が発表されました。

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【懇親会】
 会員大会につづき、場所を13号館(福田屋ビル)に移動して懇親会が行われました。はじめに池尾茂会長(機械1996年卒)のご挨拶があり、吉田泰昌副会長(電電1966年卒)の乾杯の発声で懇親会が始まりました。約1時間半にわたって和やかに同窓生たちが歓談したのち、岸本泰志(化学1971年)の一本締めで1日の大会を終了しました。

懇親会.JPG

 

                            - 以上 -

〔文責:事業企画委員/井上俊一(電々93年卒)〕
〔写真:事業企画委員/水村 栄(機械75年卒)〕

 


 

 


 

  

写真など

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