「会員の広場」第7回 岸本泰志(1971・化学卒)

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〔投稿者〕 岸本 泰志(1971年化学卒):理工学部同窓会副会長・広報委員長

「環境問題は本質を捉えて議論しよう」

 昨今の地球環境問題を考える上で、少し違った角度からのコメントを紹介して幅広く考えるヒントとしたい。 
 数年前より、環境問題の議論で象徴的に登場するプラスチックごみによる海洋汚染が問題視され、海洋生物の胃から出るマイクロプラスチック、レジ袋が被さって息のできない海鳥等々の映像がセンセーショナルにTVで放映されている。
 メディアは一斉にプラスチックは海洋汚染を招き地球環境に悪いと叫び、「プラスチックストローはやめよう」、「レジ袋の使用はやめよう」と論理性に欠ける対策が社会的な運動に発展し、政策にまで反映されている。

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                      プラスチックの海洋汚染被害とされる海洋動物の写真

 しかし、プラスチック海洋汚染問題の解決は、いきなり「プラスチックは悪だ」ではなく、先ずは「プラスチックは捨てるな、海洋流出を防ごう、回収しよう」が本質論。先ずは海洋流出が最大量のプラスチック容器の回収システムの検討が現実論ではないか。
 環境活動家は海洋汚染を声高に叫ぶのは「プラスチックが環境に悪いという啓蒙活動だ」と主張するが、要は人間の使い方の問題である。
 スーパーの食品売り場に行ってみれば良く分かるが、殆どの食料品はプラスチック包装され、プラスチック容器入りで販売されていて、レジ袋だけ悪者では理屈が通らない。日本では既に「プラスチックリサイクル促進法」が施行され、プラスチックは回収するものとの考え方で利権とビジネスが関わりながらもリサイクルが進んでいる。

 その一方でマスクの廃棄問題は放置されているままだ。昨年からの世界的なコロナ感染拡大でマスクの使用量は激増した(2019年世界の推定使用量は約25千T ⇒ 2020年は少なくともこの十倍以上)。基本的に現在の一般マスクは、布製を除いてプラスチック製(サージカルはPP不織布、N-95やウレタン製もプラスチック)であり、少なくとも環境保護を叫ぶのであれば使用済マスクは分別回収すべきである。ところが実態は殆どが一般ごみとして使い捨てられていてストローやレジ袋どころの話ではないが、マスクの分別廃棄を啓蒙する人もいないしマスコミも報道しない。
 ほんの一例だがこれらの問題には触れずに都合良く切り取ってプラスチックは環境問題の元凶だと声高に感情論で主張るのは正に「矛盾の空論」となってしまう。

 現在のプラスチックは文明社会を支える必須の材料で、しかも高度な性能と機能を持つ文明素材であり、プラスチックなしの社会は最早成立しない(ここでは委細略)。従って、一部リサイクルは実行されてはいるが、本質論からは大きくかけ離れている。
 長年新しいプラスチック機能素材の開発に係わった身からすると、プラスチック素材と環境問題は本質をしっかり理解した上で使い方と廃棄・回収や再活用の仕方を正しく議論し、プラスチック循環型社会を考えるべきで、矛盾の空論で問題をミスリードしてはならない。

 話は長くなるが、環境問題でもう1点。
 地球温暖化の原因物質とされる炭酸ガス削減が21世紀の世界目標となり、先の気候変動サミットでも各国の意欲的な2030年までの削減目標が示された。その議論でも炭酸ガスの排出量削減の課題を示す簡単な言葉として「脱炭素」の表現が日本中に氾濫しているが、「化学」を生業にしてきた立場では違和感を禁じ得ない。
 なぜなら、先般ある親しい主婦から化学の専門家として尋ねられた「炭素はよくないの?」と。つまり然るべき人は「脱炭素」=「炭酸ガス排出削減」と解っているが、化学に縁のない普通の人々には「脱炭素」=「炭素は悪いもの」と誤解されている様で、あらゆる炭素化合物が迷惑を被っている。

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                             マスコミに踊る「脱炭素」の表現

 例えば、一般に「物質」という言葉は無機的に捉えられているが、「化学物質」と形容詞がついた途端に"悪いもの"、"危険なもの"のイメージに変化する。
 日本化学会も「夢化学21」キャンペーンで「化学」のイメージアップ作戦を展開しているが、言葉の持つイメージを好転させる程には一般の人に浸透していない。
 動植物を含めて生命活動は、そしてこの文明は炭素を基軸とした化学物質(炭素化合物)の反応で成り立っていて「炭素」は必須の基本元素である。我々人間も炭素化合物の塊、生体高分子であり、極論すれば「脱炭素」を誤解すると生命の否定につながってしまう。最早無理であろうが、"炭酸ガス削減"の議論をミスリードしない為にも、矛盾の空論を生む「脱炭素」の言葉は避け、せめてカーボンニュートラル等の表現にすべきである。
 因みに、「脱炭素」の悪者代表選手となっている石油・石炭は太古の動植物の末裔であり、正にバイオ由来の"化学物質"である。


 

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